この『魔女の宅急便』のヒットの頃には、映画というソフトウェアが一般家庭でもかなり視聴できるようになってきたという背景もあります。『魔女の宅急便』は当時からVHSビデオ版やLD版も好調。劇場公開の興行収入の数字もよかったのですが、VHSビデオ版やLD版も売れており、ジブリにとってソフトウェア時代の本格的幕開けとともにヒットした作品といえるでしょう。
そして、ここからが本題なのですが、そういったVHSビデオなどのソフトウェアで『魔女の宅急便』を観るという流れから、『他のジブリ作品は何があるんだろう?』と遡って考える人が増え、『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』といった過去作のVHSビデオ版が買われていったと推測します。
そうすると、劇場公開時は観ていなかった人々が『観てみたら面白い』という感情を抱き、徐々に『スタジオジブリ作品は全部面白い』という印象が刷り込まれていったのではないでしょうか。少なくともジブリに“制作スタジオ”としてのファンがつきました」(木原氏)
余談だが、同じく宮崎駿監督の『風の谷のナウシカ』(84年/14.8億円)は、劇場公開時にはまだスタジオジブリは誕生しておらず、後年のVHSビデオ版などの発売でスタジオジブリ関連作品として扱われるようになった映画である。
中期以降のジブリ作品が面白くないと言われる“真の理由”
いずれにしても『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』『となりのトトロ』『魔女の宅急便』の初期作によって、「スタジオジブリにハズレなし」という信頼と安心を生み出すことに成功したのは間違いない。要するに、この4作品でブランディング化に成功していたということだろう。
「ジブリ作品はリバイバル上映をほぼやっていません。つまり、初期作を劇場で観賞した経験がある人はかなり少なく、よくいわれる初期ジブリ映画のヒットとは実は“ジブリソフトヒット”だといえます。
もちろん、97年公開で興行収入193億円を叩き出した『もののけ姫』以降はジブリ映画ブームがあったといっていいでしょう。しかし、そのブームの要因も、VHSビデオなどのソフトウェアか日本テレビ系『金曜ロードショー』で繰り返されたテレビ放映が大きなきっかけになったと思います」(同)
木原氏は「重要なのはここから」と続ける。