一枚岩ではない自動車メーカー
こうしたなか、KSSや自動車メーカーの一部で、新旧分離型の法的整理案が検討されていることが明らかになった。KSSが、エアバッグやシートベルト、チャイルドシートなどのタカタの主要な自動車部品事業を買収し、リコール関連費用などの債務を旧タカタに残す。旧タカタはKSSから支払われる事業売却費用を、債務の弁済に充当するというものだ。この法的整理案を否定するのが、冒頭のタカタのコメントだ。
ただ、新旧分離型の法的整理案は、ホンダなど一部自動車メーカーが中心となってまとめたもの。「想定外のリスクが発生し、巨額の債権放棄を迫られる可能性がある」などとしてこの案に反対する意見もあり、自動車メーカーも一枚岩ではない。
ホンダは、2016年3月期までにタカタ製エアバッグのリコール費用を引き当て済みで、当面はこれ以上の大きな費用は発生しない見通しだ。
「ホンダはタカタ製部品の採用比率が高いため、債権放棄の規模より、問題を1日でも早く処理し、新生タカタから部品の安定供給を受けることが第一と考えている節がある」(関係筋)
実際、「部品供給を第一に考えるなら、創業家が主張する私的整理でも構わない」との意見もあるという。自動車メーカー間で、タカタ問題の解決で何を優先するかで温度差があるのが実態だ。
「そもそもタカタの問題は、大株主でありタカタと関係の深いホンダが資本を注入するなり、救済を主導するなりすべきというのが、多くの自動車メーカーの本心」(全国紙記者)
ホンダ側もこうした意見が耳に届いているだけに、タカタを早く法的整理したいとの焦りがある。
創業家の意向
4月27日付日本経済新聞は、タカタを新旧分離型の法的整理することでホンダやトヨタ、KSSが大筋合意したと報じた。
「ホンダは以前、日経新聞へのリークで有名だった人が広報部長に就任した。今回の記事も同紙にリークして、新旧分離型の法的整理の流れをつくろうとしているのではないか」(経済ジャーナリスト)
タカタ創業家が反対している法的整理は、同社が裁判所に申請する必要がある。このため、外部専門委員会、自動車メーカー、KSSが合意したとしても、タカタの創業家が納得しなければ経営再建策は絵に描いた餅となる。これを暗示するかのように、タカタは「今後もKSS、自動車各社、外部専門家委員会の各関係者間において、再建策についての協議が進められ、当社に最終提案がされ、その提案を踏まえて当社取締役会において最終的に決定する予定」とコメント。再建策をそのまま受け入れるわけではないことを匂わせている。
予断を許さない状況ながら、タカタ問題の収束にはなお時間がかかりそうだ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)