社長は、もちろん代表取締役で、すべての決定権があります。修正申告に応じるも応じないも社長次第。税務調査中の飲み物も社長次第。怒らせて良いことはありません。丁重に扱います。といっても、これだけの規模で、歴史ある会社だと社長は高齢な場合が多いです。税務のことなど「我関せず」といった具合で、知らず知らずのうちに税法に抵触することもあるでしょう。だからといって責めません。優しく修正申告を促します。
計上漏れが発覚
このようなメンツで、テーブルを囲みます。
結果からいうと、この調査では2つの否認事項がありました。福利厚生費の否認と棚卸資産の計上漏れです。
同社は、帳簿上、毎月3~7万円の福利厚生費を社長に現金で渡していました。確認したところ、使途は不明で受け取ったか受け取っていないかも曖昧な状況。月平均5万円で、1年で60万円。5年分で300万円を否認できます。社長に渡しているこのお金がなぜ経費にできないかというと、役員給与の損金不算入など諸々理由があるのですが、複雑なので詳細は割愛します。つまり、給与として扱うこともできませんし、領収証もないので経費にできません。社長に対する認定賞与として課税することになります。ちなみに、認定賞与という言葉は、今後の連載でも出てきます。ぼくの好きな税務用語のひとつです。
棚卸資産の計上漏れは、決算期末に在庫として残っているはずのお米の量を数えて資産として計上すべきところを怠っていたという内容でした。簡単に説明すると、この会社は、お米をどこかから仕入れて、弁当店に販売しています。仕入れ代金は経費になり、販売した分は売上になります。売上から経費を引いたものが利益で、利益が多くなるほど税金も多くなります。逆に、経費がたくさんあるほうが税金は安くなるわけです。決算期末に在庫として残っているお米は、経費にできません。資産として計上しなければいけないのです。しかし、この会社は税金を安く抑える意図で在庫のお米を経費にしていました。今回は、それを否認して追徴したのです。
否認事項を伝えると、社長も税理士も修正申告に素直に応じ、すぐに納付されました。この会社は、それ以降、誤りのない確定申告をするようになり、とてつもなく繁栄したそうです。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)