違法な税理士業務を行う反税団体
ぼくは、仕方なく個室に入ります。個室では、50~60代のポロシャツにジャケットを羽織った不幸が染み付いた顔の男、滅多に着ないスーツを箪笥から引っ張り出してきた品性を捨てたような男、30年は着続けているであろう作業着に身を包んだ貧しさと手をつないだような顔の男、Tシャツにチノパンを合わせた歯が3分の1しかない男、肌色のスーツを着たショートカットの気の強そうな女が、会話もせず静かに座ってこちらを見ています。
「どうぞ座ってください」と促すヒラメ男に「どういうことですか?」と確認します。
ヒラメ男「どうもなにもうちの税理士さんですよ」
ぼく「顧問税理士はいないはずでは?」
ヒラメ男「◯◯の方ですよ」
それは税理士ではなく、反税団体といわれる違法に税理士業務を行う集団の名前でした。ぼくは、税理士以外の第三者の税務調査への立会いが禁止されている旨を伝えましたが、ヒラメ男は「まあ、いいじゃないですか。やってくださいよ」と聞く耳を待たず、ショートカットの女も「いいから、やんなさいよ! 何をごちゃごちゃ言ってんのよ!」と黒板を爪で引っ掻いたような声で叫んで抵抗します。
仕方がないので、「本日は帰らせていただきます」と言い残し、鰻店を出ました。あとからわかったことですが、4人の男は反税団体に税理士業務を依頼している商店街の面々で、女は反税団体の幹部でした。この反税団体が、税理士より安く確定申告を請け負ってくれているのです。これはもちろん違法ですが、利益が少なく税金リテラシーの低いコミュニティでは、反税団体に頼む事業者が少なくありません。そういう団体は、税務調査への立会いができませんので、後日改めて調査を行いました。ぼくは、反税団体用の膨大な報告書の作成を迫られ、必要以上にコストのかかる事案となりました。
(文=さんきゅう倉田/元国税職員、お笑い芸人)