5月半ば以降、世界の金融市場では米国の政治に対する不安が高まってきた。この背景に、トランプ政権とロシアの癒着疑惑があることはいうまでもない。特に、トランプ大統領がロシアのラブロフ外相に軍事的な機密情報を伝えたとの疑惑が報じられたことは、金融市場に大きな影響を与えた。
この報道を受けて一部の投資家の間では、トランプ大統領が弾劾されるのではないかとの憶測さえも出始めた。その結果、5月17日には米株を中心に各国のリスク資産が大きく下落した。ドルが大きく売られ、反対に金が買われるなど、多くの投資家が急速にリスク回避に動いた。ただ、この動きは長続きせず、週末にかけて株価は持ち直し、円高圧力も一服した。
この動きをみると、トランプ政権への不安が高まっているにもかかわらず、市場は先行きに楽観的であるようにみえる。言い換えれば、多くの投資家は、米国の政治がどうなるかよりも、景気の回復が続くことを期待しているとみられる。今後、トランプ政権に関する新たな政治スキャンダルが発覚すれば、金融市場が混乱する展開は避けられないだろう。
トランプ政権に関するさまざまな憶測
ロシアへの情報漏えい疑惑が報じられたことを受けて、金融市場では今後の米国の政治に関して、さまざまな憶測が立っている。特に関心を集めているのは、大統領弾劾の行方だ。
しかし、同氏の弾劾の手続きがスムーズに進むとは考えにくい。米下院では過半数を超える議席を共和党が確保している。そのため、下院で弾劾訴追案が承認され、上院に審議がゆだねられる可能性は高くはない。最終的に大統領を罷免するためには、上院の3分の2の議員(67議席)の支持が必要だ。
また、トランプ氏が大統領を辞し、ペンス副大統領に大統領の職務が引き継がれる可能性があるとの指摘も出ている。その場合、下院議員やインディアナ州知事を務めた経験から、ペンス氏のほうが経済対策をうまく取りまとめることができるとの見方もある。そのほかにも、今後の米国の政治に関するさまざまな見解が示されている。いずれも、米国の政治動向が読みづらくなるという点では共通している。もし、同様の懸念を多くの投資家が持つなら、米国の株価は下落基調をたどってもおかしくはない。