昨年11月の大統領選挙以降、米国の株式市場は税制改革やインフラ投資、規制緩和への期待に持ち上げられてきた。専門家の間では、経済の実力以上の水準まで株価が上昇しているとの指摘もある。こう考えると、今後の政治不安が米株価の下落につながるとの見解には、一定の説得力があるといえる。
しかし、5月18日以降、米国の株式市場は持ち直した。トランプ大統領の政治生命の危機ともいえる状況のなかで株価が上昇していることは、金融市場の関心が、政治以外のテーマに向かっていることを示唆していると考えられる。
リスク資産の上昇を支える景気への楽観論
多くの市場参加者は、米国の緩やかな景気回復が続き、世界的にも経済環境が大きくは崩れないだろうと楽観しているのではないか。それが、政治不安が高まる米国を中心に、世界の株式市場の底堅さを支えていると考えられる。
楽観を支えている主な要因が、世界的な低金利環境だろう。これは、“カネ余り”と言い換えてもよい。多くの投資家にとって、2%台前半の米国10年国債の利回りでは、十分な収益を確保することが難しい。このようななか少しでも高い利回りを確保するためには、低格付けの社債や株式など、よりリスクの高い資産に資金を振り向けざるを得ない。
現在、米国の企業業績の改善も支えとなって、こうした資金のフローに大きな変化はみられない。連邦準備制度理事会(FRB)が、市場が予想する以上のペースで金融引き締めを進める差し迫った必要性を示しているわけでもない。そのため米国の金融市場を中心に、よほどのことがない限りリスク資産への資金流入が短期間で変化するとは考えづらいとの見方が広がっているようだ。その結果、米国の主要株式指数であるS&P500インデックスの価格変動率を示すVIX指数は歴史的な低水準で推移している。
先行きを考えた時、米国の緩やかな景気回復が続くか否かが重要だ。現時点で米国経済を見渡すと、徐々にではあるが景気回復のペースにはもたつき感が出始めている。特に、米国の個人消費が増えづらくなっていることは見逃せない。一例をあげると、年初以降、新車販売台数は伸び悩んでいる。新車だけでなく、中古車市場でも在庫が増え、価格が下落している。こうした動きが続くことは、徐々に米国の需要が伸びづらくなっていることを示している。
小売り売上高の推移をみても、市場の予想ほど強くはないデータが増え始めている。今すぐではないにせよ、徐々に米国の消費が頭打ちになりつつある可能性は排除できない。