徐々に高まるトランプリスク
こうした状況が続けば、金融市場の参加者は、米国の景気回復の持続性に不安を感じ始めるかもしれない。それは米国の株式市場の調整につながるおそれがある。個人の消費に加えて、原油価格の動向にも注意が必要だ。
昨年の米大統領選挙後、減産期待などに支えられた原油価格の上昇を受けて、米国では石油の掘削に使われる装置(リグ)の稼働数が増加してきた。この結果、米国のシェールオイルの生産は増えている。加えて、カナダやブラジルでも石油の生産が増えている。
サウジアラビアなどが減産を進めたとしても、基本的に石油の需給はだぶつきやすいだろう。この見方が正しいとすると、原油価格の上値は重く米国でのリグの稼働も抑えられる。それは、米国の経済成長を下押しする一因と考えられる。
見方を変えれば、緩やかな景気回復が続いている間に米国の政府がインフラ投資を実行し、設備投資の増加につながる取り組みを進めることができれば、景気が支えられる可能性はある。しかし、今後の経済対策の発動を期待するのも徐々に難しくなっている。ロシアとの癒着疑惑の高まりから、これまで以上にトランプ大統領への批判は強くなっているからだ。
トランプ大統領の当選以降、多くの投資家が株価の上昇が消費者や企業経営者のマインドを好転させ、期待が実体経済の改善につながると考えた。今後は、“逆トランプ相場”というべき動きが進みやすくなっている。トランプ大統領に関する新たな疑惑が発覚すれば、米国を中心に株価の下落は避けられないだろう。その結果、先行きへの期待の剥落が消費者などの心理を悪化させ、実体経済には下押し圧力がかかりやすい。
特に、政治への懸念から株が売られたタイミングで、消費を中心に米国経済への不安が高まるなら、かなりのマグニチュードで株価は下落するのではないか。それを受けて、金融機関の不良債権処理が十分に進んでいない欧州経済への懸念が高まるなど、世界経済の先行き不透明感は高まるおそれがある。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)