改正酒税法は本当に酒屋を守れる?
ビールが突然10%近くも値上がりしてしまったら、たとえ酒税法改正のニュースに疎かった消費者でも、購入を躊躇する人もいるのではないだろうか。
一方、6月2日付日本経済新聞記事『ビール1割値上がり』では、5月31日と6月1日とで店頭価格の比較を行っている。
例として、イトーヨーカドー食品館練馬高野台店では6月1日、「キリン一番絞り生ビール」などの350ml缶6缶パックが税抜1130円前後で売られており、5月31日に比べて4~7%の値上げ幅だったが、そもそもイトーヨーカドーでは同月21~31日にかけ、ビールの特売を実施していたという。
これを踏まえ、親会社であるセブン&アイ・ホールディングス広報センターに取材を行った。
「報道されている内容ですと、特売価格のビールが比較対象だったために4~7%という開きが出てしまっているのですが、通常の売価と比べれば約1%の値上げにとどまっています。それもごく一部の銘柄だけで、他の銘柄ではほとんど値上げしていません。弊社では改正酒税法の施行前から適正な売価で商品をご提供するよう意識しており、5月末もお客様を煽るような販促をすることはなく、駆け込み需要もなかったという状況です。
気温が暑くなるのに伴いビールの売り上げが伸びることはあっても、酒税法の改正が近づいたからといって、お客様が『今のうちに買っておかなければ』と焦るほどの効果は出ていませんでした。今月もこれまでと変わらない売り上げを見込んでおりますし、ビールの販売戦略に特段の変更もございません」(セブン&アイ・ホールディングス広報センター)
イトーヨーカドーは5月の時点で極端な低価格販売を行っていなかった分、わずか1%の上昇幅に収まったというわけだ。逆に前述の某スーパーチェーン店の場合は、常日頃からビールを安売りしていたのかもしれないし、10%の値上げによって、ようやく他店と同水準の価格になったという見方もできる。
結局、1%や10%といった値上げ率は元値がいくらだったかによって意味合いが変わってくるのだが、某スーパーチェーン店は「今はまだ暫定的な売価設定のため、他社の動向を見ながら徐々に値段を変えていくことになるでしょう」とも語っていた。現時点では、どれだけ安く売ると違反になってしまうのかという基準が不明確なので、店舗ごとに対応が割れたという状況だ。
もうじき、ビールがより一層恋しくなる季節が訪れる。今回取材した各スーパーは、ビールの売り上げ減をあまり懸念していない様子だが、ビール愛飲家たちの消費傾向は今後、どんな動きを見せるのか。そもそも、酒店の救済という本来の目的は果たされるのか。
値段だけが焦点になるならば、酒税法が改正されたからといって、わざわざ酒店まで足を運ぶ消費者が増えるとは考えにくい。なぜなら、スーパーがビールを値上げして定価との価格差が小さくなったとしても、自宅近くのコンビニで購入する人が増える可能性が高いからだ。
また、スーパーの安売りの脅威にさらされているのは酒に限った話ではないため、数ある商品のうち、酒だけを規制したのは不可解だという指摘もなされている。改正酒税法の意義が、今後しばらく議論の的になることは避けられないだろう。
(文=A4studio)