一方、社内外で評判が高いのが半導体・社内カンパニーのトップを務める小林清志上席常務(57)。東北大学大学院理学研究科という経歴からは木訥(とつ)とした人物を想像しがちだが、実像は異なる。同社元技術者は「東芝有数の切れ者。あまりの鋭さを恐れて『クレイジーキヨシ』と呼ぶ人も社内にいるほど。技術に明るいだけでなく、経営手腕も高い」と語る。競合他社の技術者も「小林さんは考えていることの次元が違う。何十年も先の世界が見えているような怖さがある」と敬意を示す。
ただ、もし小林氏が候補に挙がったとしても、この人事は一筋縄ではいかない。
理由は2つ。まず、東芝では、これまで半導体部門出身者の社長がいないことだ。年度によって東芝の営業利益の半分を稼ぎ出す事業にもかかわらず、これまでは副社長止まりだった。この暗黙のルールを打ち破れるかがひとつの焦点だ。第二に、現在の佐々木則夫社長が大の半導体嫌いで有名なこと。「前社長の西田厚聰会長(68)が半導体に傾注して、原発畑の佐々木さんはずいぶんと苦い思いをしていた」(金融筋)。実際、佐々木氏が社長就任以降、半導体投資は絞りに絞られ、全盛期の半分以下の年間1000億円台半ばで推移している。現在、スマートフォンなどに搭載するNAND型フラッシュメモリーの工場を、合弁で運営する、米サンディスクの関係者も、「西田時代は尻を叩かれっぱなしだったが、今はこちらが叩いてもなかなか動いてくれない」と、半導体事業が冷遇されている現実を語る。
佐々木現社長、最後の仕事で問われる「器」
だが、社内を見渡しても、めぼしい人材が見あたらないのが現実。デジタルプロダクツを担当する下光秀二郎副社長(59)が北村氏の対抗馬だが、担当分野が今後の成長領域とはいえないだけに、積極的に推す理由は見あたらない。
先が見えない分、社内では「小林さんがこのまま半導体事業を執行し続ければ、社内での半導体部門のパワーは増す。そうした状況下では、原発関連事業などのインフラ系出身者が社長に就けば反発も起こるだろうし、社内のバランスがとりにくい。社内政治を考えると、佐々木社長は半導体部門出身者を苦渋の決断でトップに据えるのでは」との憶測すら飛んでいる。深謀遠慮が渦巻くなか、果たしてどのような決断が下されるのか。17日に開催された経営説明会では次期社長について「まだ具体的な話は出ていない」と述べるにとどまった。
佐々木社長は豪放磊(らい)落で、記者の夜討ち朝駆けにも嫌な顔をせずに応対するなど、就任以降、社外からの評判は高い。次期社長の選定という最後の仕事で、あらためて「器」が試されそうである。
(文=江田晃一/経済ジャーナリスト)