震災を見通す神通力(?)はなかった
震災前まで、東芝は総合電機の中で完全な勝ち組だった。事業の集中と選択を他社に先駆けて推進、半導体と原発関連事業に経営資源を注力する体制を整えた。特に原発事業では2006年に、54億ドル(当時のレートで約6400億円)の大枚を投じて米ウェスチングハウス(WH)を買収。海外での原発事業ではほぼ無名の東芝が、老舗のWHを傘下に収めたことで、グローバルな事業展開のパスポートを得た。この買収で活躍したのが、当時専務で原発畑出身の佐々木則夫社長(62)だ。独身で社長就任前の一時期は古いアパートに暮らし続け、社内の一部からは「変人」と揶揄(やゆ)する声もあるが、原発ビジネスには隅の隅まで精通しているエキスパートぶりを発揮する剛腕である。しかし、その佐々木氏でも震災を見通す神通力までは持ち得ていなかった。原発事業で15年度に売り上げ高1兆円という目標を掲げたが、震災の影響で、17年度に達成時期を先送りせざるを得ない状況となった。
成長の二本柱の一方である半導体事業とは異なり、収益が読みやすい原発事業のつまずきで、雲行きが怪しくなってきたのが次期社長レースだ。東芝は原則4年で社長が代わるため、来年度の交代が濃厚。現在、大本命といわれているのは原発を含む社会インフラ事業を束ねる北村秀夫副社長(60)。ただ、東芝関係者はこう囁く。「北村さんで不動と見られていたが、原発事業が揺れている今、ひょっとすると、ひょっとするかもしれない……」。
挙動不審の米ウェスチングハウス?
短期的には、原発の建設推進が難しくなったという不透明性に加え、キナ臭くなってきたのが買収したWHの動き。4月1日付で社長就任予定だったジム・ファーランド同社米州地域総責任者が、突如この3月末に退職。2日付で東芝常務の志賀重範氏が暫定的に社長に就任した。4日、退社したファーランド氏は、米重機大手のバブコック&ウィルコックスCEOに就任。WH内における経営路線の対立が一因とも言われている。
この動きでわかるように、「原発の老舗」という自負があるWHの中には、東芝の軍門に下ることを好ましくないと思っている人材が、いまだに少なくないということだ。外資系アナリストは「WHの買収は技術だけでなく、営業の人脈を買う意味もあったはず。日本人社長にしたら、現地の取引先とのパイプがなくなるのでは」といぶかしがる。WHに対し東芝本社のグリップが利いていない可能性は高く、加えて東芝の稼ぎ頭に位置づける事業が揺れたままで、その事業責任者である北村副社長が次期社長に就任できるのかという問題が出ているわけだ。
急浮上する半導体人脈
そこで、東芝次期社長候補として急浮上するのが、原発と並ぶ稼ぎ頭の半導体部門。半導体出身の出世頭は斎藤昇三専務(61)だが、13年には62歳になるという年齢から考えて、絶望的とみる向きが多い。加えて、「すごみがあるわけでなく、典型的な陽気なおじさん」(同社関係者)と、人柄は良いが経営手腕にも疑問符がついている。