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自らテストドライバーを務めるトヨタ社長は、類まれな経営者である…著名人を乗せ自ら運転

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

自社の製品やサービスを愛しているか

 少し話が逸れるかもしれないが、何年かに1人程度、新入生が筆者の研究室を訪ねてきて、「自分は経営者になりたいが、どうすればよいか?」といった質問をすることがある。単に「そうか、がんばれ」というべきかとも思いつつ、キラキラした若者に申し訳ないが、「なるほど、それでどのような事業がしたいのか?」と尋ねてしまう。すると、100%の確率で無言、終了となる。「なんだよ、経営学部の教授なら何か儲かる事業やノウハウみたいなものを教えろよ」といった陰口を叩かれていることだろう。

 マーケティングの第一人者である米経営学者のフィリップ・コトラー教授は、講演会で「ビジネスの世界でCFO(最高財務責任者)の力が強くなってきているが、行き過ぎた費用対効果の追求など厳格な資金管理はイノベーション力を低下させる。夢を語れるCMO(最高マーケティング責任者)をどの企業も配置するべきだ」といった意味合いの発言をされていたが、本当にその通りだと感心した。

 ちなみに、豊田氏はレクサス事業を統括するレクサスインターナショナルのCBO(最高ブランド責任者:CMOと同義と捉えられる)とマスタードライバー(テストドライバーの頂点に立つ存在)にも就任している。

 自らが所属する組織の商品やサービスを愛することは当たり前のように思われる。しかし、実際にそうなのだろうか。とりわけ、大企業への就職を希望する人のなかには、必ずしも良い商品や良いサービスではなく、良い給与、安定性、福利厚生などを求めるケースが多く、その後、惰性で何十年も勤め続けるというパターンは決して少数派ではないだろう。

 大企業の社長のなかに自社の事業(商品・サービス)を心の底から愛し、覚悟や夢をもって取り組んでいる人が果たして何人いるだろうか。

 自動車会社の社長がマスタードライバーに就任し、レースにも出場するほど自動車を愛している。こうした、本来なら極めて当たり前のことが、現代においては不思議なほど新鮮に思えてしまう。従業員や消費者に大いにプラスの影響を与えていることは間違いないだろう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

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