日本のモノづくり全体に共通する課題
陶器の便器は、製造現場において、高い技術力が求められる。焼き物体験などを行った人ならわかると思うが、陶器は焼きの工程により、かなり縮んでしまう。そのため、こうした縮みを事前に計算し、型をつくらなければならない。さらに、縮む割合は季節(極端なことを言えば、その日の天候)によっても変わるため、画一的な工業製品として量産していくには熟練の技が必要となる。さらに、見えない箇所のヒビの検査にも細心の注意が必要となる。こうした工程が存在するモノづくりにおいては、日本の優位性は今後も持続していくだろう。
しかし、樹脂の便器においては、現在でこそパナソニックなど一部のメーカーに樹脂素材に関する特殊な技術的優位性があるものの、基本的に樹脂成型の生産現場においては高い技術力が要求されないのではないだろうか。
さらに、時間の経過とともに、樹脂素材に関する特殊な技術が海外メーカーに流出してしまう懸念もある。
日本のテレビ産業の衰退理由として、モジュール化の進展がしばしば指摘される。モジュール化の要点は、部品が入手しやすく、しかもレゴブロックのように簡単に組み立てるだけで製品が完成してしまう状況である。
従来、テレビの部品は内製もしくは関連会社への外注に限定されていたものの、現在では世界中から容易に調達でき、またブラウン管の時代には組付けに必要であった技術も不要となったため、特別な技術力を擁していない海外メーカーも製造できるようになり、熾烈な価格競争が生じた結果、日本メーカーは優位性を失ってしまった。
陶器の便器の優位性をいかに高め、維持していくのか。もしくは、ゼロベースからの改革を行うのか。
こうしたポイントは、多くの日本のモノづくりにかかわる企業に共通する課題といえるだろう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)