出光興産が昭和シェル石油との合併に向けて動き出した。7月3日に出光が公募増資を実施すると突如発表したことで、昭シェルとの合併に強硬に反対していた出光創業家の持ち株比率が3割を割り込むことになったからだ。しかし、創業家側は法廷闘争に持ち込む方針を即座に表明した。「経営陣憎し」に燃える創業家側の感情を静めることは、そう容易ではない。先行きは流動的で不透明感はますます増したといえる。
昨年の6月の株主総会で突如、創業家側が合併に異議を申し立てて1年。膠(こう)着状態にあった会社側と創業家側との関係に変化が訪れた。創業家は33.92%の出光株を持ち、経営統合など重要な決定を否決できる3分の1超を握っており、これが合併の障壁になっていた。今回、会社側の目論見通りに、発行済み株式の3割に相当する4800万株の公募増資が実現すれば、創業家の持ち株比率は26%程度に低下する。
突如の増資
解決の糸口が見いだせぬなかで増資に動いた背景にあったのが、先日の株主総会での月岡隆社長の取締役選任議案への賛成率上昇だろう。61.1%と決して高くないものの、「52%台だった昨年に比べれば上昇しており、強硬な姿勢に出ても耐えきれると判断したのだろう」(石油業界筋)との見方が支配的だ。
とはいえ、増資の正当性を疑問視する声も少なくない。会社側は海外事業や成長性が見込める有機EL事業への投資に振り向けると説明しているが、創業家の持ち株比率を低下させるのが狙いなのは、誰の目にも明らかだからだ。
「会社側は増資を昨年から検討してきたが、実行すれば一株当たりの価値が下がるため、株主の不利益になりかねない。慎重な意見も社内で根強かったようだ」(競合の石油元売り幹部)
また、経済部記者は語る。
「会社側も今回の増資には、気まずさがあるのだろう。報道陣向けには当日の昼すぎに『海外高機能事業の対応について』という資料を夕刻に配布すると伝えていた。それが蓋を開けてみれば、増資ですからね。寝耳に水もよいところ。確かに調達した資金を一部振り向けはしますが、注目を少しでもそらすための完全な騙し討ちでしょう」