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「Eテレ」周波数帯の売却で受信料は月300円にできる…NHKの意図的なミスリード?

聞き手・文=明石昇二郎/ルポライター
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

正確に言うと「Eテレが使っている周波数帯の売却」案

『菅首相ブレーンのNHK改革案「Eテレ売却で受信料は半額にできる」』

 内閣官房参与の高橋洋一・嘉悦大学教授がニュースサイト「NEWSポストセブン」で主張した“NHK改革案”が注目を集めている。これに対し、SNS上では、

「これ本当かな。必要な改革は経営効率を上げるための話ではないはず。アーカイブをはじめNHKの映像資産や技術をより皆が使いやすくするべきものであるべき。最も公共放送らしいEテレ売却なんて馬鹿げてる」(堀 潤氏/元NHKアナウンサー)

「愚か者たちが、どんどん「本を焼く」行為を行おうとしている。EテレなきNHKはほとんど政府広報機関になってしまうだろう」(渡辺輝人弁護士)

「いいえ、NHKの最大の存在意義がEテレです。子ども達が夢中になって、真似をした『ピタゴラスイッチ』や『ノージーのひらめき工房』どれだけ価値があるか、『オークションにかければ数千億円』程度じゃありません」(長谷川羽衣子氏)

など、真っ向から反対する意見が続出して拡散。果ては、NHKの前田晃伸会長までが12月3日、定例会見で、

「教育テレビはNHKらしさの一つの象徴だと思う。それを資産売却すればいいという話には全くならないと思う」

と反論する事態にまで発展した。

 昭和30年代から40年代の高度成長期に小学校や中学校に通った者なら、学校の授業でアナログ放送時代のNHK教育テレビ(現在のEテレ)にさんざんお世話になったものだ。21世紀になってからも教室には、あの大画面の「亀山テレビ」が当たり前のように据えられていた。そんなEテレが売却される? そんなことが本当にできるのか?

 そこで、高橋教授の真意を訊くべく、インタビューした(12月5日)。

        ※

――このたびは「Business Journal」の取材をお受けいただき、ありがとうございます。先生が書かれた「現代ビジネス」の記事『受信料義務化、建て替え計画…迷走するNHK改革は「Eテレ売却」が特効薬だ』や、YouTubeの「ニューソク通信社」の動画『「NHKは『Eテレ売却』で受信料を半減にできる」と書いたら大炎上!「Eテレこそ大事」の声に執筆者自ら大反論!』も拝見しました。改めて、批判や反論に対するご意見を伺います。

高橋教授 堀 潤さんはNHK(出身)の人だから、わざと言っているのでしょう。長谷川さんっていう人は、ようするに「Eテレ売却」の意味をとり違えている。正確に言うと、Eテレが使っている周波数帯の売却なんですよ。これは、私の「現代ビジネス」の記事では正確に書いてある。「Eテレの売却」というと、チャンネルを資産として売却するというイメージで“コンテンツの売却か”と思われたようだが、そうではない。

――先生の書いた「現代ビジネス」の記事をご覧になっていれば、そういう反対意見にはならないと?

高橋教授 NHKの前田会長は、会見で混同して答えています。「資産売却する」と。私は「周波数帯の売却」とハッキリ言っている。周波数帯の売却というのは、それを通信会社に売ること。実はそのインターネットでEテレ(の番組)は流せる。

――ところで、「現代ビジネス」の記事でもそうでしたし、「NEWSポストセブン」でもそうなのですが、記事の見出しが「Eテレ売却」となっています。

高橋教授 「Eテレ売却」って見出しを書いたのは、編集の人です。

――やはりそうでしたか。反発や反論が相次いだのは、言うなれば見出しによるミスリードなのかなと思っていたんです。

高橋教授 見出しのミスリードとは、メディアはいつもそんなものでしょう。

――そうかもしれません。あえて目を引くような見出しを付けると。

高橋教授 「Eテレ周波数帯売却」って書いたら字数が長くなるから、縮めただけではないですか。

――編集部から「こういう見出しを付ける」という打診は、記事の掲載前にあったんですか?

高橋教授 内容チェックはするが、私は見出しに興味ありません。二次情報に頼る人は見出しで判断する傾向があります。マスコミの人に多いですね。マスコミの人は、こういう物理の話が苦手でしょう

――物理の話という以前に、その「周波数帯売却」という話は、先生が記事の中で書いていることです。

高橋教授 「周波数帯」とか言われても、イメージが湧きにくいようです。テレビで使っているのと、携帯電話で使っているのは同じ電波で、周波数帯がちょっと違うだけだっていうのは、多くの人は理解しにくいみたい。堀 潤さんや前田会長は、知っててしゃべっていると思うのだけど、わざと取り違えたと思います。つまり、一般の人が混乱するようにわざと話していると。

――批判や反論のツイッターを見ていて、記事の見出しに引きずられ過ぎている人もいるのかなと思ったものですから。

高橋教授 見出しに引っ張られる人は、記事の中身を見ないでしょう。基礎的な理科の教育を受けていないと、「周波数」と言っても意味がわからないようです。

 電磁波には、放射線、可視光線、電波があって、速度はどれも光速で同じだが、波長と周波数は、それぞれ異なるのは、理科で習ったはずだが、電波の話になるとみんなわかんなくなるようだ。地上波が何ヘルツの帯域でやっていて、そのちょっと隣が携帯(電話)と言っても、ピンとこないみたい。

――報道に携わる人とか、言葉を使うことを仕事にしている方であれば、批判するなら理科が得意であろうとなかろうと気をつけるべきだと思います。実際、先生は、前掲の動画の中でも「Eテレのコンテンツはネットで流せばいい」と話していましたし、「現代ビジネス」の記事でもそう書かれていました。

高橋教授 (Eテレの)コンテンツは良いって書いてあります。

――Eテレをコンテンツごと丸々売却するような提言ではないというのは、記事を最後まで読めばわかると思います。ですので、見出しがミスリードしちゃっているのかなと思ったわけです。

高橋教授 それはメディアではいつものこと、と私は思います。編集をやっている方ならおわかりでしょうけど、ようするに見出しでミスリードさせても、読んでもらうのがメディアの仕事。

――記事の見出しは、マスコミ業界用語でいうところの「編集権」に属する話で、見出しは通常、編集者が付けます。

高橋教授 編集権を私は理解しているので、見出しには口出さないです。私は見出しを見て、「ああ、編集者ってこういうレベルで見出しを付けているのかな」と思ってみているだけですから。メディアはそんなものです。

NHK受信契約は「もちろん結んでいます」

――そのあたりの話は本題ではないと思いますので、そろそろ本題に入りたいと思うのですが……。

高橋教授 それはある意味で本題です。NHKはずっとわざとやっています。

――わざと?

高橋教授 そう、わざと。周波数の売却とコンテンツの売却を意図的に混乱させて、ミスリーディングしてきた。ようするに、周波数帯の話が明確にわかると、彼らはけっこう困るのでしょう。

――ごめんなさい。本題というのは、Eテレの周波数帯を売却することによって、国、あるいは国民、もしくは社会全体に対してどのようなメリットがあるのかということをお伺いしたいわけです。

高橋教授 NHKは、携帯電話やスマホ、タブレットといった技術ができる前に、地上波で「教育テレビ」、今のEテレをやっていた。しかし、今や文科省が「GIGAスクール構想」を打ち出して、インターネットで教育を推し進めている。だから、今やEテレを地上波として流す時代ではない。ないから、周波数帯を携帯電話に回せばいいという、単純な話をしているだけです。

――先生は、NHK受信料が月額200円から300円にできるともおっしゃられています。先生の書いた記事でも、そうした見出しが付いていました。先生の提言が実現すれば、結果として受信料はそれくらいにできると?

高橋教授 それは、NHKが本当のスリム化をすればできるでしょう。というのは、Eテレの周波数帯売却からはじまって、各種の改革をすれば、最終的に、(地上波)1チャンネルとラジオだけになるのだから。その1チャンネルのうち、私の考える公共放送というのは、せいぜい災害放送と、政見放送とか、国際放送の話ぐらい。そこだけ国が補填すればいい。そのくらいなら、そのくらい(月額200円から300円)でできるでしょう。

 公共放送とコマーシャルでもけっこうできる。海外の公共放送でもコマーシャルでやっているところはある。本当のコアの公共部分は補助金を出せばいい。

――国からの補助金ですか?

高橋教授 もちろん。今もNHKの国際放送には(補助金を)17億円とか出しているが【注】、それと同じ趣旨でその範囲をちょっと増やせばいい。

【注】NHKのホームページには、国際放送に国から交付金が出ていることについての説明があり、「国の要請に応じて行う放送の費用は国が負担するよう放送法で定められており、令和2(2020)年度政府予算案では、交付金はテレビとラジオを合わせて35.9億円」とされている。

――「NHKは国営放送だ」と揶揄する意見を昔からよく見かけますが、NHK自身はそう言われるのをすごく嫌がっていて、自分たちは「国営放送」ではなく「公共放送」なのだと主張しています。

高橋教授 公共放送なら、世界の公共放送並みにやればいい。公共放送なのに、すべて受信料でやっているのは、世界にはあまり例がない。

――実は私も、これまで当サイトでNHK受信料の話を何回か書いたことがあるんですが、読者の皆さん、NHK受信料に関してはすごく関心があるみたいで、ページビューもすごくあるんです。当サイト編集部の話では、昨年9月に書いた拙稿は10万ビューを超えていたとのことでした。

高橋教授 受信料だけという制度はあまりない。それに、NHKの場合には高い。世界の公共放送では、コマーシャルなどで収入は多様化している。

――余談ですけど、先生はNHKと受信契約をされていますか?

高橋教授 もちろん結んでいます。一応、契約義務があるからやっているというレベルです。

(聞き手・文=明石昇二郎/ルポライター)

※後編に続く

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

明石昇二郎/ルポライター、ルポルタージュ研究所代表

1985年東洋大学社会学部応用社会学科マスコミ学専攻卒業。


1987年『朝日ジャーナル』に青森県六ヶ所村の「核燃料サイクル基地」計画を巡るルポを発表し、ルポライターとしてデビュー。その後、『技術と人間』『フライデー』『週刊プレイボーイ』『週刊現代』『サンデー毎日』『週刊金曜日』『週刊朝日』『世界』などで執筆活動。


ルポの対象とするテーマは、原子力発電、食品公害、著作権など多岐にわたる。築地市場や津軽海峡のマグロにも詳しい。


フリーのテレビディレクターとしても活動し、1994年日本テレビ・ニュースプラス1特集「ニッポン紛争地図」で民放連盟賞受賞。


ルポタージュ研究所

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