まさかNHKでも起こるとは――。
5月7日放送の情報番組『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)内で放送された新型コロナウイルス感染症に関する医師へのインタビュー取材の映像において、「今の段階でPCR検査をいたずらに増やそうとするのは得策ではない」「無作為な大規模検査は現場としてはまったく必要としていない」という発言が編集でカットされ、真逆の文脈で使用された問題。
欧州各国ではPCR検査の実施件数が日本と比較してかなり多いとする流れのなかで使用されたとして、この医師は自身のFacebook上で「PCR検査を大至急増やすべきだ!というメッセージの一部として僕の映像が編集され、真逆(まぎゃく)の意見として見える」と抗議。『グッド!モーニング』は謝罪し、5月12日に取材時の映像を改めて流した。
これと同じような事態が、NHKでも起こっている。
8月20日放送の『NHKニュース7』内では、同日に東京都が開催した新型コロナに関する「モニタリング会議」の模様について報じた際、ナレーションで国立国際医療研究センターの大曲貴夫国際感染症センター長が「集中治療室の使い方は病院ごとに異なり、都の基準のほうが実態を反映している」と発言したと伝えられた。
しかし、大曲氏は同日、自身のTwitter上で以下のように投稿した。
「本日NHKニュース7で、私 大曲 貴夫が新型コロナウィルス感染症の東京都モニタリング指標について『都の指標の方が優れている』と発言したと報道されました。私はそのような発言はしていません。指標の選択の根拠を述べましたが、国の指標との優劣など一切論じていません」
「私の人格を傷つける悪質な誤報です。速やかに訂正頂きたい」
これを受け翌21日放送の『NHKニュース7』内でアナウンサーは「誤解を招く発言でした。失礼しました」と謝罪した。
テレビ局の体質も影響か
しかし同日、「NHK NEWS WEB」で配信された記事『専門家・県外から戻り持ち込みか』のインタビュー動画で「県外から沖縄に戻った人がウイルスを持ち込み、市中感染につながった」という発言が流された沖縄県立中部病院医師の高山義浩氏が、Facebook上に次のように投稿し、編集の方法に疑問を呈した。
「映像を見てないから何とも言えないけど・・・ 私が強調したのは、『県内で感染が急速に拡大した理由は分からない。おそらく単一の要因ではない。持ち込まれたことだけでなく、広がった環境要因にも注目すべきだ。』ということでした。このことは冒頭で強く申し上げました。
そのうえで、『米軍からの流入もあっただろうし、本土からの観光客による持ち込みもあっただろう。ただ、沖縄県民が県外に旅行に行ったり、県外にいる親族や友人が訪ねてきて持ち込んだことも少なくなかった。こうした渡航による持ち込みは、生活に入り込んで高齢者との接触機会があるため、家庭内での感染事例が多く認められた。今後、気を付けるべきポイントだ。』と申し上げました。
いずれにせよ、感染拡大の要因をひとつに決めつけるべきではありません。やや安易な編集だなと感じますが、誤解を招く表現があったとすれば、お詫びします」
ちなみに「NHK NEWS WEB」では21日付で、高山氏へ取材した内容が『沖縄の感染増加 専門家「県外から戻った人からか」 新型コロナ』という記事タイトルでも配信されているが、なぜこうした事態が相次いで起きているのだろうか。
「一般的にテレビ番組が識者などにインタビュー取材する際は、ある程度“こういう流れのなかでコメントを使う”というように、あらかじめシナリオが固まったなかで取材対象者の人選と取材が行われます。たとえば、テレ朝の『グッド!モーニング』の例では、抗議した医師の方が『PCR検査に関してはこれから検査数をどんどん増やすべきだというコメントが欲しかったようで繰り返しコメントを求められました』と明かしていますが、取材前から制作陣のほうでは“欲しいコメント”が決まっているものです。
さらにテレビ局の特徴として、基本的にインタビュー取材の対象者に、編集後の映像を放送前にチェックさせない。こうしたことが重なり、“勝手に恣意的な編集をされる”としてテレビの取材は断るようにしている人も多いです。
また、民放の情報番組などの場合、実際の取材は下請けの制作会社が行うケースも多く、時間がないなかで“とりあえず番組的に欲しい映像つくって間に合わせる”という動機が働きやすい面もあるでしょう」(テレビ局関係者)
報じる側の姿勢が問われている。
(文=編集部)