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東京ディズニーリゾート、NHK特集で「やりがい搾取」「15年もバイト」と運営元に批判噴出

文=編集部
東京ディズニーリゾート、NHK特集で「やりがい搾取」「15年もバイト」と運営元に批判噴出の画像1
東京ディズニーリゾート(「Wikipedia」より/mekarabeam)

 どのアトラクションに行こうかと地図を広げていると、「どこかお探しですか?」と箒を手にした清掃員が声をかけてくる。そして丁寧に行き方を教えてくれる。東京ディズニーランド東京ディズニーシーに行ったことのある者なら、そんな経験をして驚いたことがあるだろう。そして清掃員はしばしば、箒についた水滴で、ミッキーマウスやミニーなどのディズニーのキャラクターを地面に描く。ここでは清掃員はカストーディアルと呼ばれる。

『“夢の国”スペシャル 知られざる、魔法の秘密』と題して、東京ディズニーリゾートの清掃員らに密着したのが、3月31日放送のNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』だった。

 カメラが密着取材したのは、カストーディアル歴15年のAさん。トイブルームと呼ばれる箒と、ダストパンと呼ばれるちり取りを持って、1日に園内を20周する。Aさんは中学生の時に、同級生との交流がうまくいかず、保健室で過ごす毎日だった。そんな頃、「仕事を休むから、どこでも好きなところに連れていってあげる」と母親が言った。そして行ったのがディズニーランドだった。ミッキーマウスとハグしてAさんは、心が浄化されていくような気持ちになり、ここで働きたいと願うようになる。

 高校を卒業して、Aさんはアルバイトとしてディズニーで働き始める。往復2時間の通勤も苦にならなかった。だが最愛の母が病に伏す。近くで働けば母のためにもっとしてあげられることがあるのではないかと、仕事を辞めることを考える。だが母は「あなたは、好きなことを続けなさい」と言った。

 Aさんはどうしたら客を楽しませられるかを考え、箒についた水滴で地面に絵を描く練習を始める。最初は○を3つ描くだけだったが、しだいにミッキーに近づいていった。Aさんは、ディズニーのキャラクターのすべてを描くことを許されたカストーディアルになった。Aさんがさまざまなキャラクターを描くと、客たちの輪ができる。Aさんは子どもに「おいでよ」と箒を持たせて、絵の一部を描かせてあげる。同じように箒を持たせてもらった客たちに笑顔が広がる。

 ディズニーには接客マニュアルはない。どうしたら客を楽しませられるか、キャストの一人ひとりが考えるのだ。「キャストが最大のアトラクション」が、ウォルト・ディズニーの言葉である。

 カメラは、メンテナンスを行うBさんも追った。裏側を見せないディズニーが点検現場をレンズに晒すのは異例のことだ。「常に疑え」が信条。ロボットの点検では、ケーブルの小さな摩耗も見逃さない。高専卒業後、上京してテーマパークに勤めたが、複雑なロボットのメンテナンスで連日徹夜となり、「こんなロボット壊れてしまえ」と思ったこともある。だがある日、「あの人形凄え! 本物みてえ!」という子どもの歓声を聞いて喜びを知る。そんな喜びの顔を頭の片隅に置き、今では毎日が特別な1日だ。

 カメラは、ハイヒールで出勤するAさんを捉える。アルバイトだったAさんが社員になった。新人に仕事を教える立場にもなった。

「やりがい搾取」との批判も

 番組の内容を受け、インターネット上では、ディズニーリゾートで働く人々の意識の高さや運営元の取り組みに感動する声が上がる一方、以下のような厳しい声も上がっている。

「そして、15年バイトで最近正規になりましたというオチでしたね。15年ね」

「アルバイト歴15年。TDRのやりがい搾取の闇しか見えない…」

「娘の友達がバイトに行っていましたが、本当に若者たちに夢を見させては安く搾取する…ある意味あっぱれ」

「そこまでのスキルと根性があるのに正社員になるまで15年アルバイト」

「凄くスキルもやる気もあるのに非正規雇用なんて、ディズニーのやることじゃない」

「ミッキーのなかにいた友人も十数年バイトだったなぁ。気の毒だった」

「先輩が何人か演奏の仕事してましたが、ギャラが上がらない保証は無いは有名でした」

「20年程前、ディズニーで学生バイトをしましたが、一週間の研修でサヨナラしました。20代後半ぐらいのトレーナーの女性に違和感しか抱きませんでした。同時期に働いていた知人も1年程働いて辞めました。仰る通りやりがいの搾取です」

「この手の洗脳、やりがい搾取は闇が深いよね。 社会構造の中で自分はどの位置で仕事や業務を遂行しているのか、またそれに対する賃金や手当てを受けているのか…見えなくなってしまうよね」

「見ていて苦しいです」

「これを称賛する番組は社会悪だと思うのだが」

 実際に東京ディズニーリゾート(TDR)でアルバイト社員として働いた経験のある男性は語る。

「TDRでバイトすることになったのは、親の勧めがあったからです。母親が『就職に便利になるらしいから、大学入学のために上京したらディズニーで働きなさい』と言われていたことがきっかけです。何より驚いたのは、本当にTDRの運営はパートタイマーとアルバイトだけで回っているということです。オリエンタルランドの社員さんと接する機会はまったくありません。

 基本的にベテランのキャストの方たちは『正社員になること』より、『TDRに残り続けて仕事をすること』に重きを置いていて、給料や福利厚生などを口にしません。そんなことを口にすること自体が『世間とは無縁なTDRのイメージにそぐわない』からです。

 トレーナーやベテランのキャストの方々は、同じ劇団の仲間に近い感じでした。保守整備の基本的な仕事内容は厳しく指導されますが、何よりキャストとしての立ち居振る舞いがものすごく重要です。作業の仕方、お客さんとの接し方など、接客というよりランドの住人を演じることのできるスキルが求められます。それほどまでに、つくりこまれた世界です。

 みんなで何かをつくり上げていくことの喜びは、確かにありましたし、楽しいのですが、『お客さんのため』というより『こうあるべきTDRのイメージのために』という意識が何より強く、違和感を抱きすぐ辞めてしまう方は多いです」

 ディズニーリゾートに関する取材経験のある週刊誌関係者は語る。

「ディズニーリゾートではキャストや非正規社員の方々などがユニオンを結成し、運営元に対して労働環境や雇い止めをめぐる問題について団体交渉をしたり、従業員が訴訟を起こすなど、多くの紛争が生じています。実際に過度な業務により病気を罹患したとして労基署が労災を認定したケースもあり、ことさらにディズニーリゾートの労働現場を美化する放送内容には疑問を感じます」

 そうした問題への運営元の取り組みなどにも、焦点を当ててほしかった。

(文=編集部)

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