新卒採用市場における外国人採用が徐々に増えている。外国人留学生の日本企業への就職者数は2003年は約3800人だったが、14年には約1万3000人と3倍に増加していることでもわかる。
外国人を採用する主な目的は、(1)優秀な人材を確保するために日本人学生と同様の選考基準で採用する、(2)海外の取引先に関わる部署への配属などグローバル要員として採用、(3)異文化人材による会社の活性化への効果を期待――の3つだ。
また、人手不足で日本人学生が集まらないので採用する企業もあるが、大手企業は日本人学生と同じ基準で選考し、優秀であれば採用するという企業も多い。実際に三菱重工業は5年前に外国人留学生の多い立命館アジア太平洋大学(APU)から6人の留学生を採用したことがある。同社の採用数の多い出身大学の上位は東大、京大、早慶が多く、文系では一橋大学だが、この年はAPUがトップになった。
採用理由として同社の採用担当者は、もちろん優秀だという以外に「異文化受容能力が高く、積極的な海外志向」を挙げていた。日本人学生の毎年の卒業生は45万人。売り手市場とはいえ、大手企業が欲しがる優秀層は上澄みの10%にも満たない。
外国人学生の魅力について、石油会社の採用担当者は日本人学生と比較してこう語る。
「経営環境が5年先も見通せない状況では国内だけでなく、海外での事業展開も強化しなければいけません。今の学生は自分の学生の頃と比べてよく勉強しているし、真面目ですが、外国人に比べてハングリー精神や向上心の高さが全然違います。気迫というか、バイタリティやエネルギッシュさが根本的に欠けています」
とくに近年、外国人の採用に積極的なのが小売・サービス業だ。観光客などのインバウンド需要もあり、家電量販店のノジマやラオックスは中国人を中心に採用している。ローソンも毎年3割程度の外国人を採用。また、イオンもアジア展開を加速するためにグローバル要員として世界中から優秀な外国人を採用。20年度には日本本社の外国人比率を5割に高める予定だ。
大和ハウス工業も子会社のホテルチェーンを運営する大和リゾートが2021年度までに新卒全体の約8割に当たる約200人の外国人を採用することにしている。訪日客を見込んだホテルを今後約10カ所開業する計画。17年度からアメリカやイギリスなど欧米諸国に採用担当者を派遣し、現地での人材獲得を強化している。
日本企業が日本人採用重視に傾く理由
こうした動きを見る限り、外国人採用の動きがさらに広がる可能性もある。とはいっても、今は全体として外国人の採用が日本人学生の採用を脅かすまでには至っていない。外国人就職者が1万3000人といっても、全体から見ればごくわずかにすぎない。また、国内ビジネスが中心の企業では外国人採用意欲はそれほど強くない。
毎年400人以上を採用している住宅販売会社の採用担当者は「外国人採用ニーズはない」と語る。
「現状では日本人学生の優秀な人材を確保できているし、コア人材として活躍できる外国人もいるだろうが、今の当社のビジネス環境では外国人の必要性を感じていない。海外にも進出しているが、現地のプロパー人材を雇えばいい話だ。ただし、日本の人口が減っているし、当社の人材要件に合う学生が増えれば外国人採用が現実味を帯びてくるが、今後数年は必要ないだろう」
じつは海外事業を積極的に展開しているグローバル企業でも、外国人採用はそれほど増えてはいないと指摘するのは採用アナリストの谷出正直氏だ。
「外国人留学生を一定程度採用しているが、劇的に増えているという印象はない。海外要員として外国人を増やしていけば日本の学生の採用枠が狭まることになるだろうが、数としてはそこまでに至っていない。もちろん、進出先では現地の人材を採用しているが、日本の本社で雇う人は少ない。なぜなら日本人を海外に派遣したほうが、本社と現地のオペレーションがうまくいくと考えているからだ」
グローバル企業といっても、日本本社では圧倒的に日本人が多く、外国人を幹部に育て上げようという気がなく、日本人だけで回していこうという意識を持つ企業が多いこともある。
外国人を積極的に採用しないもう1つの理由は、グローバル企業も含めて日本語ができる人を求めているからだ。その結果、高度の技能を持ち、英語力はあっても採用されないという日本独特の事情もある。
実際に外国人留学生の65%が日本での就職を希望しても、そのうち就職できたのは24.7%という結果もある(日本学生支援機構「外国人留学生進路状況調査」2013年)。
新卒採用支援会社モザイクワークの杉浦二郎代表取締役はこう指摘する。
「日本企業の多くは残念ながら日本語のコミュニケーション能力を求めている企業が多い。エンジニアのようにスキル要件がはっきりしている場合は、多少日本語能力に欠けていても採用する企業はあるが、日本語が上手でないと、日本人でもいいじゃないかという話になってしまう。だが、外国人を受け入れる土壌がなく、多様性、ダイバーシティの観点でもまだまだ問題を抱えている企業も少なくない」
日本語能力を問わない企業も
実はそのなかで、日本語はできなくても優秀なエンジニアを積極的に採用し、戦力化している企業もある。クラウドセキュリティ分野の開発・販売を手がけるHDEは社員130人規模の会社であるが、従来の新卒採用から通年採用に転換し、14年から日本語力を問わないエンジニアのグローバル採用を実施している。入社希望者はインターネット上でエントリーし、同じくネット上のスクリーニングテストとスカイプによる面接をクリアすれば日本でのインターンシップに参加し、合格すれば入社が決まる。
求める要件は高度のITスキルだ。14年のスタート以降、世界各国から4000人以上のエントリーがあり、そのなかから40人がインターンシップに参加。現在約130人中20人の外国人が同社で働いている。出身国は台湾、インドネシア、タイ、マレーシア、中国、スイス、アメリカ、ドイツなど多彩だ。現在、外国人が開発の中核を担い、事業拡大を支えている。
同社の高橋実人事部長は語る。
「日本語力という要件を外せば、世界の優秀な学生を採用できることがわかった。世界に日本で働きたいと希望する優秀な外国人は多い。求めるITスキルは日本でも相当高いレベルだが、日本人でもスクリーニングテストで合格した学生はいない。エンジニアは開発が中心であり、顧客との接点は営業が担当するので問題はない。大企業に比べて日本人学生の人気はなくても、日本語力にこだわる日本企業に比べて人材獲得においては大企業より優位だと思う」
実際にインドネシアの理系トップの大学の首席クラスの採用にも成功している。同社は優秀な外国人人材を受け入れると同時に英語の社内公用語化に踏みきり、日本人社員の英語力強化も推進している。20年までに社員を250人から300人に拡大し、事業規模も海外も含めて10倍に拡大させる計画だ。
あえて国籍、日本語力を問わない採用で優秀な人材を確保し、業績拡大を狙う。いかに優秀な外国人でも日本語でコミュニケーションできる人を求める大企業とは一線を画した採用戦略といえる。
高橋部長によると、同社のように日本語力を問わない採用をしている日本企業は20社程度という。
「いずれ日本も優秀な人材の不足する事態になるかもしれない。そのときにせっぱ詰まって外国人を採ろうとしても、今ほど採れないかもしれない」(高橋氏)
また前出の谷出氏はこう指摘する。
「人材不足の状況が本当に深刻になり、慌てて外国人を採用しても、文化・習慣が違うので定着するまでに10年はかかるだろう。その点、すでに外国人を採用している企業はノウハウが蓄積していくし、いずれノウハウを持たない企業との決定的な差となって企業業績にも大きな影響を与えるだろう」
いうまでもなく企業業績の源泉は人材競争力である。外国人学生と日本人学生を巻き込んだ人材獲得競争が起きるのは間違いない。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)