問題は、そこに実体を伴わないことだ。同社はVAを株式になぞらえているが、これは誤りだ。一般的に、株主には議決権や残余財産の配分を求める請求権、配当を受ける権利がある。しかし、VALUを支えるものは“人気”や“期待”とみられる。配当の請求権はない。砂上の楼閣を多くの人が取引しているにすぎないともいえるだろう。
トレーディングカードのように、取引の参加者が少なく、入手したい対象が限られている場合、その価値は短期間で急騰する可能性がある。基本的に人気が価値を左右するという特性上、こうした不安定さは避けられない。ゲームソフトの流行り廃りと同じだ。VALU社のプラットフォーム内では特定の登録者への価値(他者からの評価)が短期間で大きく動き、思わぬ損失などを被る可能性がある。
初期段階にあるが故の“生みの苦しみ”
フィンテック・ビジネスの登場に伴って、資金調達の在り方は大きく変化してきた。そのひとつにクラウドファンディングがある。クラウドは群衆(crowd)を指す。不特定多数の人々から資金を調達するのである。クラウドファンディングにはさまざまなタイプがあり、金銭的なリターンを求めない寄付型、事業に関する権利や物品の取得などを念頭に置いた株式型、事業の成長をもとに金銭的なリターンを求める投資型などに分類されることがある。
VALU社はクラウドファンディングのコンセプトを個人に当てはめた。一方、同社は、VAの発行に関するルールを明示しなかった。クラウドファンディングにも、実体がない、想定された通りのリターンがもたらされないなど、多くの問題が出ている。
VAの価値がどう変化するかは、登録者の考えとファンの期待に左右される。そのリスクを同社もユーザーも、十分に認識できていなかった。人気ユーチューバーが高値にあったVAの売却を行ったことに対して、VAの購入者から“売り逃げ”や“聞いていたことと違う”といった批判が相次いだことは、ある程度想定できた展開だったかもしれない。
これまでにはなかった新しいビジネスが育ち、それに法制度が追いついていない状況では、VALUが直面しているような事態が起こりやすい。ある意味、それは“生みの苦しみ”といえる。