VALU社に限らず、インターネット上でなんらかの見返りを提示することで特定の人物などが資金の拠出を募るフィンテック・ビジネスは増えていくだろう。このなかで、出資やトークン(プロジェクトなどのしるし、象徴、今回のケースではVAが該当する)の購入を通して想定外のリスクを負担しているおそれがあることは、個々人が冷静に考えなければならない。加えて、トークンの発行者(ユーチューバー)などは、その考えがトークンの性格を左右し、問題発生時の責任にも影響が出る可能性があることを認識すべきだ。
これからの展開予想と注意点
すでに新聞などでも報じられている通り、VALU社をめぐる騒動は司法、政府、業界、ユーザーなどを交えて議論が行われるべき問題だ。重要なことは、規制が強化されるとVALU社のような、新しいコンセプトを応用して事業を起こそうというチャレンジの芽を摘んでしまうおそれがあることだろう。
そうした展開を防ぐためには、騒動の震源地となったVALU社の能動的な行動が欠かせない。同社がVAを株になぞらえていたことは間違いだ。ミスを認めたうえで金融庁などとの折衝を重ね、新しい規制の枠組みを整備することが同社の信用につながるだろう。
5月末にVALU社は個人の価値を登録し、トレードするサービスを開始した。それから数カ月の間に起きた展開を考えると、こうしたフィンテック・ビジネスへの需要は非常に強いといえる。VALU社側はトレードシステムの改善などを通してビジネスモデルの正当性を追求しなければならない。
具体的には、VA登録の条件をより詳細かつ厳密なものとする、取引のモニタリングを行う、あるいは第3者を巻き込んで詐欺案件などの発見機能を強化するなど、信頼回復のための取り組みを重ねる必要がある。その上で、同社には主体的に金融庁や司法界に働きかけ、ユーザーの保護と新しいビジネス創出を念頭に置いた法・規制の整備を求めていくことを期待したい。
今回のケースは、単にVALU社の問題として片づけるべきではない。新しいビジネスをクリエイトする動きが加速するほど、法整備の遅れなどの社会的な問題が炙り出されるはずだ。特に、IT業界では秒進分歩のスピードで新しいビジネスが生み出される。そのなかで、個人が第3者に出資を募るなど、従来にはなかった金融サービスが身近なものとなる展開が予想される。VALU社をはじめ従来にはなかったコンセプトを用いてビジネスを行おうとする企業の教訓を生かすことが、ブロックチェーンをはじめとするフィンテック・ビジネスの育成には不可欠である。
(文=石室喬)