リクルートホールディングス(HD)は、出木場久征(いでこば・ひさゆき)氏が4月1日付で社長兼最高経営責任者(CEO)に昇格すると発表した。峰岸真澄社長(57)は代表権を持つ会長兼取締役会議長に就く。東証株価指数(TOPIX)を構成する時価総額1兆円以上の企業で、最年少の社長が誕生する。
社長交代は9年ぶり。出木場氏は2012年に米求人検索サイト、インディードの買収を主導し、同社のCEOとして成長させた実績をもつ。日本企業の巨額買収が目立つが、成功した案件は少ない。このなかでインディードは海外M&Aの成功例として挙がる。インディードは今やリクルートのドル箱。「人材業界のグーグル」と呼ばれる巨人に大化けした。
峰岸社長と二人三脚
出木場氏は1975年4月22日、鹿児島県の生まれ。実家は瓦屋。「丸の内周辺では、僕が一番上手に瓦を葺けるサラリーマンだと思います」と語っている。早稲田大学商学部に進学。1990年代後半のインターネットの黎明期で、早大に在学中からインターネットビジネスに励んだ。卒業後、99年、リクルートに入社。最初の配属は「カーセンサー」の営業代理店への出向だった。Webサイトを運営した経験を活かし、顧客の車が売れるような情報を提供した。顧客に積極的にコミットする姿勢が評価され、全社表彰を受けたこともある。
リクルートでキャリアを積んで起業する社員は多い。出木場氏も起業するつもりだった。「退職してネットビジネスをやる」と申し出たときの上司が峰岸氏だった。「お金(を稼ぐことだけ)ではなく、もっと大きなことをやってみないか」と諭された。ここから峰岸氏との二人三脚が始まる。
リクルートは営業成績がものいう“営業優先”の会社だが、出木場氏はネットビジネスで頭角を現した。宿・ホテルの予約サイト「じゃらん」や美容院・美容室の予約サイト「ホットペッパービューティー」のオンライン予約システムを発案した。
2012年に大きな転機が訪れた。峰岸氏が社長兼CEOになったからだ。「北米やアジアで人材派遣会社のM&Aを検討する。広告からオンライン企業に脱皮させ、ITを基盤にしたビジネスモデルを進化させる」と峰岸社長は宣言した。出木場氏は、この時、最年少でリクルートの執行役員R&D(研究開発)、グローバル本部・アジアジョブボードに就任した。
965億円でインディードを買収
峰岸社長・出木場執行役員コンビの初仕事が、米インディードの買収だった。同社は2004年11月、ITベンチャー起業家によって設立され、クリック型報酬求人広告のネットワークを開始した。日本では2009年11月からサービスを始めた。
日本に参入した3年後の2012年10月、米大手新聞のニューヨーク・タイムズが保有していた株式をリクルートが買収、リクルートグループの一員となった。買収額は965億円と巨額だった。2013年10月、インディード・ジャパンを設立、日本市場に本格参入した。リクルートはM&Aを企画・立案した担当者を買収先に責任者として送り込む戦略を徹底している。骨をうずめる覚悟でM&Aに取り組むことで、最後の最後まで細部にこだわり、ギリギリの交渉ができるようにするためだ。
出木場氏は12年9月、米インディードの会長、翌13年10月、社長兼CEOに就いた。「仕事探しはインディード」「バイト探しはインディード」のテレビCMを、それこそ洪水のように打ち、知名度は急速に高まった。そして、とうとうインディードは世界で月間2億人以上が利用する世界最大の求人情報サイトに成長した。「人材業界のグーグル」と呼ばれる所以だ。金鉱を掘り当てたのである。インディード買収の成功で、出木場氏は出世の階段を駆け上がっていった。
リクルートHDのビジネスは3つのセグメントで構成されている。創業事業である販売促進、人材採用支援を行うメディア&ソリューション。2つ目が、これまで成長を牽引した人材派遣。そして、次の主力と位置付けているのが求人サイト、インディードを含むHRテクノロジーである。
2021年3月期連結決算(国際会計基準)は新型コロナウイルスの感染拡大が幅広い事業に影響を及ぼしている。売上高にあたる売上収益は前期比10%減の2兆1496億円から6%減の2兆2446億円の間、営業利益は46%減の1117億円から29%減の1467億円の間、純利益は48%減の930億円~34%減の1182億円の間と減収減益を見込む。未定としていた年間配当は19円と前期(30円)から大幅に引き下げた。
HRテクノロジー部門は順調だ。20年3月期の売上収益は4249億円、営業利益は712億円。短期間のうちに急成長し、この結果、海外売上高比率は45%まで高まった(20年3月期)。数年前には海外売上は数%にすぎなかったのだから様替わりした。
リクルートHD株の時価総額は7兆円。2014年の株式公開当時の約4倍となった。インディード効果といわれている。インディード買収の立て役者である出木場氏が社長に昇格するのは当然の成り行きであり、驚きはない。
コロナ禍の下でバトンタッチした出木場氏は1月13日の会見で、世界のインターネット業界の中では「リクルートは中小企業」と指摘。「同じミッションを持っている会社であれば積極的に話していきたい」と述べ、求職者と求人企業のマッチング分野で優れた技術を持つスタートアップ企業などの買収に意欲を示した。
(文=編集部)