「失われた20年」といわれた日本経済は、今、再び立ち上がりつつある。日本経済の復活に欠かせないのが、中小企業の存在だ。大手企業の競争力の源泉であると同時に、地域に雇用を生み、地域経済の基盤を形成する。
企業をとりまく環境が厳しさを増すなかにあって、活力ある中小企業は、創意工夫や迅速な経営判断、あくなき挑戦意欲を持ち、海外市場への進出に活路を見いだすなどして、生き残ってきた。奈良機械製作所もまた、その一社だ。
物質の4つ目の状態、「粉体」を極める
羽田空港からクルマで約1時間。奈良機械製作所は、中小企業の集積地として知られる大田区の人工島、城南島にある。従業員約170人ながら、創業93年を数える長寿企業だ。「粉粒体処理技術(パウダー・ハンドリング・テクノロジー)」装置の設計、製作、販売を手掛け、世界最先端の独自技術を保有するオンリーワン企業だ。国内では、北海道千歳市にサテライト事務所を構えるほか、四日市の工場、城南島の本社で生産を手掛ける。
奈良機械製作所2代目社長の奈良自起(よりおき)氏は、次のように語る。
「物質の状態は、気体、液体、固体といいますが、粉体は4つめの状態といわれます。小麦粉や化粧品のファンデーションなどは粉ですよね。それから、最終製品は粉ではないものも、製品をつくる過程では、多くの製品が粉の状態を経るんです」
粉体技術には、じつにさまざまな種類がある。というのは、処理する物質の大きさや堅さ、水分や融点などの性質によって、技術が異なるからだ。例えば、ビンを粉体にする場合は砕く技術、ゴムを粉体にする場合には切る技術が必要になる。奈良機械製作所は、粉砕、分級、乾燥、集塵、混合、造粒、整粒、さらに供給や輸送、また、表面改質や複合化など、粉体に関わる幅広い技術を手掛ける。粉体と一言でいっても、顧客ごとにニーズはさまざまだ。
「化粧品のファンデーションであれば、あまり細か過ぎると、化粧落としができません。つまり、小さくすればいいというものではなく、皮膚を守るためにも、適切なサイズ、湿度などを調整できなくてはいけないんですね」
同社が扱う製品は、子猫サイズの粉砕機から5階建てのビルほどの大きさの乾燥機プラントまで数十種類にわたる。顧客ごとに、適切な粉砕機や加工プロセスなどを提案してカスタマイズする。