米大手買収は運用力を高めるためだった
国内の損保業界は再編を経て、東京海上ホールディングス、MS&ADインシュアランスグループホールディングス、SOMPOの3大グループに集約された。さらなる合従連衡で国内のシェアを高めるのは難しいため、各社はM&Aを活用した海外事業に取り組んだ。
大型M&Aの第1幕は、15年6月に東京海上傘下の東京海上日動火災保険が米保険会社のHCCインシュアランス・ホールディングスを9400億円で買収すると公表したことで上がった。その後、MS&AD傘下の三井住友海上火災保険が英アムリンを6400億円で買収した。そのころ、生命保険でも、第一生命保険(当時)が米プロテクティブを5800億円、明治安田生命保険が米スターンコープ・ファイナンシャル・グループを6250億円、住友生命保険が米シメトラ・ファイナンシャルを4650億円で買収することを決めるなど、大型買収が相次いだ。
14年9月に損保ジャパンと日本興亜が合併して損害保険ジャパン日本興亜が誕生したが、直前の14年5月には、損保ジャパン(当時)がキャノピアスを1000億円で買収している。新しく発足した損害保険ジャパン日本興亜は15年3月、世界5位の仏再保険会社、スコールに15%出資し、持ち分法適用会社にすると発表した。その際の出資額は1000億円だ。
海外大型買収の第2幕は16年10月、損害保険ジャパン日本興亜がエンデュランスを6800億円で買収したことでスタートした。東京海上日動のHCC買収に次ぐ過去2番目の規模だ。17年3月に買収手続きを完了した。
キャノピアスを買収したのはロイズに足場を築くためだったが、エンデュランス買収の狙いは、これとは異なる。米社が得意とする農業保険や役員賠償保険などスペシャルティ(特殊)保険と呼ばれる専門性の高い保険商品は、自動車保険、火災保険が主体の日本の大手損保が不得手とする分野だ。
米社の買収は、運用力の向上を意図したものだ。米ブラックロックや米フィデリティ・インベストメンツなどの大手投資家がエンデュランスの大株主になっている。東京海上日動は、12年に買収した米子会社に2000億円の運用資金を委託し、収益源にしている。SOMPOもグループの運用力を高めることを狙ったのだ。
3メガ損保傘下の損保会社(単体)の17年3月期決算を比較してみよう。
正味収入保険料は、損保ジャパン日本興亜が2兆1656億円で1位。2位は東京海上日動火災保険で2兆1161億円、3位は三井住友海上火災保険の1兆4701億円となっている。
資産運用粗利益は、1位が東京海上日動の2176億円、2位が三井住友海上の1470億円だ。損保ジャパン日本興亜は1323億円で3位となっている。エンデュランスの買収で資産運用力を高めて、先行する2社を追撃する構えだ。
3メガ損保の17年3月期連結決算は、買収した海外企業の収益が寄与したことから純利益はいずれも過去最高を更新した。東京海上はHCCが連結対象となり、前期比7%増の2738億円。MS&ADはアムリンが連結対象となり、15%増の2104億円。一方、SOMPOは4%増の1664億円だった。
SOMPOは18年3月期にエンデュランスが連結対象になるため、純利益は10%増の1830億円を見込んでいる。しかし、キャノピアスを今期中に売却するため、19年同期は減益が不可避だ。売却の影響は小さくはない。
(文=編集部)