「日産を信頼していただいている皆様に、心からお詫び申し上げる」
日産自動車の西川廣人社長兼最高経営責任者(CEO)は、国内のすべての工場で無資格者が完成車の検査を日常的に行っていた問題で陳謝した。しかし、国土交通省の立ち入り検査で、有資格者が検査していたように書類を偽装していたことが明らかになった。組織ぐるみで悪質な行為を繰り返していた可能性があり、経営責任を問われる事態に発展しそうだ。
日産は10月6日、国土交通省に無資格者が完成検査を行っていた可能性のある過去3年分の既販車について、38車種、116万台のリコールを届け出た。無資格者の完成検査がいつから始まったかは現在のところ不明だが、車検を1度でも受けた車両については完成検査に準じた検査を受けたと見なして、とりあえず車検を1度も受けていない車両をリコールして、整備工場で点検する。
自動車の型式指定制度では、型式指定を取得した車両を生産する場合、完成車1台1台を自動車メーカーが国に代行するかたちで環境や安全などに関する保安基準を満たしているか検査し、これをパスした車両がナンバーを取り付けて一般公道を走行できる。
完成車を検査する検査員の資格については、自動車メーカーが研修方法などの社内規定を定め、これを国土交通省が承認する。完成検査は認定された従業員だけが行える。日産に資格を持つ完成車の検査員は国内に約300人いるが、これとは別に資格を持たず、完成検査を手伝う「補助検査員」が約20人いる。今回の問題は、資格を持たない補助検査員が完成検査を行っていたことが発覚したもので、こうした行為は道路運送車両法に抵触する。
型式指定制度では、国は自動車メーカーを信用して自らが生産した車両の検査を任せている。日産は社内で完結するこの制度を悪用していたわけで、石井啓一国土交通大臣は「自動車型式指定制度の根幹を揺るがす行為で、極めて遺憾」とコメントしている。
不正は国内6つの工場すべてで行われており、西川社長も「ある意味、常態化していた」と認めざるを得なかった。
上層部に対する不満
さらに問題発覚後の調査で、悪質性も浮き彫りになってきた。無資格者が完成検査し、預かっている有資格者の判子を使って検査結果を記録する書類に確認印を押していたことが国交省の立ち入り検査で明らかになった。無資格者の完成検査が法令に違反するとの認識があり、書類を偽装していた疑いが濃厚だ。国内6工場のうち、5工場で同じような行為が繰り返されており、組織ぐるみの不正であった可能性も否定できない。