西川社長は「国交省から指摘を受けるまでまったく認識していなかった」と述べ、経営陣の関与を否定する。また、今回の問題に対する内部告発もなかったという。ただ、問題が発覚したのは国交省による日産車体の湘南工場への抜き打ち検査だ。業界では「国交省に対して日産車体の社員が告発した」との見方が強い。その背景にあるのが日産の上層部に対する不満だ。
日産は2017年上半期(1~6月)のルノー、三菱自動車を含めたグループの世界販売台数がトヨタ自動車やフォルクスワーゲン(VW)を抜いて初めて世界1位となるなど、急成長している。日産の国内生産も好調で、今上半期は前年同期比23%増の53万3000台だった。一方で、収益を重視する日産は工場が繁忙でも人の増員を極力抑えることから、生産現場に大きな負荷がかかっている。西川社長は「人手が足りないのではなく、認識が足りなかった」と述べているが、無資格の補助検査員が完成検査を行っていた原因のひとつは人手不足と見られる。特に子会社である日産車体は日産から厳しいコストカットを迫られて生産現場は疲弊しており、日産に対する不満が国交省への不正告発につながったとしても不思議ではない。
日産では、第三者も交えて1カ月程度かけて不正の詳細を調査する予定で、関係者の処分も「調査後に検討する」(西川社長)。今回のリコール費用として250億円程度を想定しているが、問題が拡大すればさらに追加の費用が発生する可能性もある。不正発覚後、日産の販売会社には顧客からの問い合わせが相次いでおり、一部では新車の購入をキャンセルするケースもあるなど、ブランドに傷をつけたのは間違いない。
西川社長の対応に批判続出
問題発覚後の西川社長の対応にも批判が集まっている。無資格者の完成検査を発表した9月29日、西川社長は欠席して役員でもない担当者のみの記者会見だった。週明けの10月2日になって開いた記者会見にやっと出てきた西川社長だが、冒頭から深く頭を下げることもなく、さらに「(無資格者であっても)検査は行われており、安全、安心は保証されている」と強調、無資格者の検査でも問題なくて国の制度のほうに問題があると言わんばかりで、この発言を報道で知った国土交通省の幹部は怒りの色を隠さない。
日産は10月16日に予定していた新しい中期経営計画の発表を11月8日に延期するなど、業務にも影響が出ている。西川氏は日本自動車工業会(自工会)の会長を務めているが、その自工会が2年に1度開催している一大イベント「東京モーターショー」が10月に開催される。自工会では、不祥事を起こした西川氏が東京モーターショーの開会宣言することを憂慮、急きょ自工会の筆頭副会長である豊田章男トヨタ自動車社長が会長代行に就任することを決めた。東京モーターショーで西川氏は表舞台には立たないことになりそうだ。西川氏に対して、書類を偽造するなどの悪質性や国内すべての工場で不正を行っていたことなどから経営責任が厳しく問われるのは間違いない。今年4月にカルロス・ゴーン氏の跡を継いで日産のCEOに就任したばかりの西川氏だが、早くも窮地に立たされることになった。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)