地球温暖化や都市部での大気汚染などの環境問題が大きくクローズアップされるなか、電気自動車(EV)が環境対応車の本命として浮上してきた。EVの普及は、自動車産業の構造を根底から崩す可能性があるといわれており、自動車業界のトップに君臨してきた日米欧の大手自動車メーカーも対策を急ぐ。
「EVを制するものは、世界を制する」――。
自動車産業の覇権争いを左右するきっかけになり得るEVをめぐって各国政府、世界の自動車メーカーの思惑が交錯、EV狂奏曲が演じられている。
EVの普及が本格化
ドイツで9月12日に開幕したフランクフルト国際自動車ショーは、フォルクスワーゲン(VW)、ダイムラー、BMWなどの欧州勢に加え、ホンダなどもEVを出展の目玉に据え、「EVショー」の様相を呈した。EVの出展だけではない。プレスカンファレンスでは、自動車各社がEVのラインアップを拡充する計画を相次いで公表、EVの普及が本格化することを印象づけた。
VWは2030年までにEV関連に200億ユーロ(約2兆6000億円)以上を投資し、25年までにアウディなども含めたグループ合計でEVを50モデル以上投入する。これまで30モデルとしていた計画を上乗せしたもので、EVに経営資源を重点的に配分、EVの年間販売を300万台にまで増やす計画だ。ダイムラーは22年までにEVを10車種投入する計画のほか、すべてのモデルに電動車両を設定すると表明した。すでにEV「i」シリーズを展開しているBMWはミニのEVコンセプトカーを公開するとともに、25年までにEVを12車種投入、品揃えを充実させる計画だ。
ドイツ勢の3社がEVに重点を置くのは、VWのディーゼル車の不正問題がきっかけだ。ドイツの3社はそれまで、二酸化炭素排出量の少ないクリーンディーゼル車を環境対応車の主力に据えていた。しかし、VWがディーゼル車に試験の時だけ有害物質の排出量を抑制する不正なソフトを搭載していたことが発覚、市場ではディーゼル車に対する不信感が高まり、ディーゼル車の販売比率が低下している。
そこでVWが目を付けたのがEVだ。その理由のひとつが、世界最大の自動車市場でVWが最も高いシェアを持つ中国の動向にある。都市部での大気汚染が深刻な社会問題となっている中国では、政府が排出ガスゼロのEV普及を強力に進める。EVに力を入れることは、中国政府の意向に沿うことにもつながる。