もうひとつの理由が、ハイブリッド車(HV)で先行するトヨタ自動車への対抗策だ。世界で初めて量産型HVを販売したトヨタは、HVに関しては販売台数、技術レベル、コストの面でライバルを大きく引き離している。VWをはじめとする欧州各社が、今からHVでトヨタに追いつくことは不可能に近いが、EVなら逆にリードできる。
そもそも欧州の自動車メーカーは「価格が高くなる割に燃費改善による二酸化炭素排出量の低減効果が小さいHVには否定的。それなら、HVと二酸化炭素排出量では遜色のないクリーンディーゼルのほうが価格が安くて効率的」(日系自動車メーカー)と見ている。これら2つの理由から、VWは環境対応車の本命をEVに転換した。
各国政府の思惑
欧州自動車メーカーの盟主であるVWに引きづられるように、ダイムラー、BMWも雪崩を打ってEVシフトに方向転換した。こうした動きは「環境対応車での遅れは取り返しのつかない事態を招く」との危機感を抱く日系自動車メーカーも例外ではない。
EVで業界のリーダーを自任する日産自動車は、ドイツ勢のEVシフトをビジネス拡大のチャンスと見てEVで攻勢をかける。ルノー、三菱自動車との3社のアライアンスで新しいEV共用プラットフォームと共用部品を使って、22年までにEVを12モデル投入する計画を公表。また、EVの車両価格が高くなる最大の要因であるバッテリーのコストを16年と比べて3割削減するなど、アライアンスによる量産効果などを活用して量産型EVを手頃な価格で提供し「EVの領域でリーダーの地位を維持」する構えだ。
フランクフルトショーで19年に欧州市場へ投入する量産型EVのコンセプトモデルを出展したホンダは、同時期に中国で開催された中国自動車産業発展国際フォーラムで、18年に中国向けEVを、中国の合弁会社である広汽ホンダ、東風ホンダの両社のブランドで販売することを表明した。合弁2社がまったく同じモデルを取り扱うのは初めてで、EVに対するホンダの本気度を示した。
一方、自動車産業は国の重要な基幹産業となるだけに、EVの普及を機に、主導権を握りたいとの各国政府の思惑もある。中国政府は、フランス、英国に追随してガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針で、導入する時期についての検討を開始した。当初から18年に自動車メーカーごとに一定水準以上の環境対応車販売を義務付ける方針だが、EVの普及に向けて電動車以外の販売を禁止するという荒業に出る。