10月6日、米国メディアが、米国移動通信市場シェア第4位でソフトバンクグループ傘下のスプリントと、同3位のTモバイルUS(Tモバイル)の合併合意が大詰めの調整に入ったと報じた。これを受けて、ソフトバンクの経営戦略に関するさまざまな議論や憶測が巻き起こっている。
ソフトバンクは人工知能の可能性に注目している。その分野で競争力を高めるために、同社は10兆円ファンドとも呼ばれる“ビジョン・ファンド”を設立した。すでに、複数のITベンチャー企業などに出資が行われている。国内経済の成長余地が乏しいなか、海外企業などの買収や投資によって成長を取り込むのは必要不可欠な発想だ。
相次ぐ買収などを受けて、ソフトバンクが何を目指しているかイメージしづらいという見方もあるようだ。企業の買収や経営統合の結果として負債が増加し、ソフトバンクの財務リスクが高まる可能性もある。
しかし、成長を続けていくためには、周囲とは異なる、新しい取り組みを続けていくことが欠かせない。そこにリスクは付き物だ。創造的破壊を進めて、需要を発掘することが企業の成長を左右する。ソフトバンクの経営戦略を考えるためには、イノベーションへの理解が必要である。
投資によって成長を遂げてきたソフトバンク
ソフトバンクという企業は、投資によって成長を遂げてきた。投資戦略を実行するために重要な役割を果たしてきたのが、孫正義会長兼社長の“眼力”だ。孫氏はただ企業を買収して、自社組織との統合を進めるのではなく、一般的には想像しづらいような将来の展開を見定め、買収先の経営陣の資質や技術・研究力などがそのビジョンに合致するかを見定めてきた。その上で、孫氏の考えに合致すると考えられる企業を買収(出資)し、経営はその企業の人員に任せてきた。
2016年9月に買収した英国の半導体設計企業、英ARM(アーム)社はその代表例だろう。孫氏は人工知能が人間の知性を超えるという理論=“シンギュラリティー”が実現することで、社会全体に大きな変化がもたらされると考えている。人工知能を実用化し、あらゆるモノがネット空間と自律的につながるためには、高性能な半導体を生み出す技術が不可欠だ。
ネットワーク社会に向けた変化に対応するために、ARM社の買収は目的に適ったものだったといえる。こうした買収の動機には、将来的にソフトバンク自らが新しいネットワークを生み出し、それを拡大することでさらなる成長を実現しようという野望があったように考えられる。