世界経済全体を見渡しても、自社のネットワークに多くの企業や個人を取り込み、ネットワークを育ててきた企業が大きな存在感を示している。アマゾンは、ネットショッピングを起点に、人工知能の開発やクラウドコンピューティングサービスを進めることで、多くの企業やユーザーを自社のネットワークに取り込んできた。孫氏が出資を決めた中国のアリババも同様だ。
このように考えると、孫氏はアマゾンを上回るネットワークを構築し、世界中のデータ、モノ、サービスを取り込んで絶え間ない成長を目指す仕組み(ビジネスモデル)を築こうとしていると考えられる。
スプリント買収の真意
投資によって成長を実現してきたソフトバンクにとって、投資の原資を生み出すビジネスの確保は、さらなる投資を実行していくために欠かすことのできない取り組みだ。孫氏は、投資のためのキャッシュを確保するためにスプリントを買収したと考えられている。
スプリントとTモバイルの経営統合が近づいていることは、投資のための資金源の確保という目的に加え、孫氏がさらなる野望を実現するために準備を進めていることと読み解くこともできる。はっきりとしたことはわからないが、孫氏は米国を中心に通信インフラの大部分を手中に収めることで、IoT時代をけん引していこうとしているのではないか。
自社のインターネット網に多くのユーザーを取り込むためには、強い誘因が欠かせないといわれる。それは、自社で動画などのコンテンツの拡充を進めているアマゾンの取り組みを見れば明らかだ。アマゾンは自社製のスマートフォンを投入したものの、ユーザーの支持を得ることはできなかった。そのため、今日ではハード(デバイスや通信網の整備など)よりも、ソフト(コンテンツ)の拡充に注力している。
ビジネスモデルの異なるアマゾンとソフトバンクを単純に比較はできない。しかし、ネットワークの成長と強化を重視するという点において、両社には共通する部分がある。特に重要なことは、ネットワークからビッグデータを獲得し、データの解析を進めて需要を生み出していくことだろう。
その点で、スプリントとTモバイルの経営統合の意義は大きい。ソフトバンクは米国の通信インフラ網の大部分を手に入れ、そこにアマゾンやアリババのサービスが提供される社会を目指しているのではないか。ソフトバンク自らネットワークを構築できれば、同社は企業や消費者などに関するデータを手に入れることができるはずだ。それはシンギュラリティー時代の到来を真剣に考えてきた孫氏の発想とも合致する。