銀行は万単位の人員削減、一方で未曽有の人手不足…透ける「要らない人材像」
「もう人は要らない」と言わんばかりの大幅な人員削減のニュースがある一方で、深刻な人手不足を報じる記事。しかも、それらがほぼ同時期の記事だ。これは一体どういうことなのだろうか。
ここから透けて見えてくるのは、要らなくなるのは言われた仕事をこなすだけの人材で、付加価値を生む人材は不足しているということだ。
それを裏付けるような事実がある。ひとり当たりが生み出す付加価値を労働生産性というが、日本の労働生産性は主要先進7カ国(G7)のなかで万年最下位なのである。しかも直近ではダントツの最下位だ。
こう言うと、「それはおかしい。仕事は山ほどあって、いつも忙しく働いている。これだけ働いているのに、労働生産性がそんなに低いはずがない」と思うかもしれない。
勘違いしてはいけない。「忙しい」ことと「付加価値を生んでいる」ことはイコールではない。付加価値とは価値を生み出すことだ。端的にいえば利益を生み出すことである。それ以外は付加価値活動とはいえないのである。煩雑な社内手続き、それに伴う事務作業や多くのペーパーワーク、何かと行われる会議、そのどれもがほとんど付加価値を生んでいない。
たとえば営業にとってもっとも付加価値のある活動はお客様と会うことだ。営業はお客様に会ってナンボだからである。さて、貴社の営業がお客様と会っている時間は全就業時間の何%だろうか。私は今まで多くの人にこの質問をし、実際に調査をしたこともあるが、その時間比率はほとんどは20~30%にすぎない。それで忙しいというのは、努力の方向性を明らかに間違っている。そういう働き方は自己満足にすぎない。
昨今の「働き方改革」は、やれ残業を減らせだとか有休をもっと取れだとか、ほとんど「休み方改革」のような議論ばかりが目につくが、「付加価値活動の割合を高める働き方に変える」という意味での働き方改革の議論をもっとすべきだ。そうでなければ、本当に多くの人がAIやロボットに取って代わられる人材になってしまう。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)