御三家の下に位置するのが主要10社。前述した通り、三菱マテリアルはここに入る。「本流の『三菱合資会社』の流れを汲む企業で、いわば名門中の名門」(三菱グループ長老)と評される。金曜会の60年以上の歴史の中で、同組織のリーダー「代表世話人」はずっと、御三家のいずれかのトップが務めてきた。唯一の例外は1979~1984年に代表世話人に就いた三菱鉱業セメントの大槻文平会長(当時)。同社は三菱マテリアルの前身企業のひとつだ。
いわば、御三家に次ぐ名門だったわけだが、その分、周囲の見る目も厳しくなる。しかも近年、三菱マテリアルが起こした大きな不祥事はこれだけではないのである。
メッキが剥げ落ちた功労者
同社四日市工場(三重県)で爆発火災事故が発生し、5人が死亡する惨事を引き起こしたのは2014年1月。当時の社長は矢尾宏氏。ずさんな管理体制や相次ぐリストラが招いた人為的事故と批判されながらも、その後も社長を続け、15年4月には代表権を持ったまま、会長に就任。現在も、その座にある。
「今回、子会社3社の不正を発表したなかで、ほとんど詳細が明らかにされていないのが三菱アルミニウムなんですが、それは矢尾さんの存在と関係している」と話すのは同社関係者だ。
08年4月、三菱マテリアルの副社長だった矢尾氏は三菱アルミニウムの社長に就任。過当競争に喘ぐアルミ業界のなかで、不振をかこっていた同社を見事に立て直し、「再建請負人」という称号を引っさげて、10年6月、三菱マテリアルに社長として凱旋復帰した。
「三菱アルミニウムがアルミ板のデータを書き換えていた時期と、矢尾さんが社長だった時期は重なっている。三菱マテリアルがそのあたりを曖昧にしているのは、功労者を守ろうとする意図が働いているとしか思えません」(同)
三菱マテリアルのこうした姿勢には、三菱グループ内からも批判の声が強い。
「矢尾会長は今期限りで退任するものと思われますが、それはもともと予想されていたこと。しかし、責任の所在をはっきりさせないまま、任期をまっとうさせてはならない。わずか数カ月の違いにしかならないかもしれないが、矢野会長は途中退任するべき。でないと、示しがつかない。三菱の名の重さを自覚すべきです」(金曜会・会員企業幹部)
三菱マテリアルの対応に注目が集まる。
(文=田中幾太郎/ジャーナリスト)
※筆者の近著『三菱財閥 最強の秘密』(宝島社新書)が発売中です。