厚生労働省は今年の通常国会に食品衛生法の改正案を提出し、すべての食品等事業者に対してHACCPによる衛生管理を制度化することを明らかにした。現在の食品製造業におけるHACCPの導入状況は、わずか29%。飲食業界ではほとんどゼロであり、同業界にしてみれば青天の霹靂である。
外食産業の市場規模(日本フードサービス協会の推計)は、おおよそ食堂・レストランが9兆9000億円、そば・うどん店が1兆2000億円、寿司店が1兆5000億円、旅館ホテルなどの宿泊施設が2兆8000億円、学校給食や社員食堂や病院給食などの集団給食が3兆3000億円、居酒屋・料亭・喫茶店・キャバレーなどが5兆円、料理品小売業が7兆5000億円といわれている。
これらのすべての事業者にHACCPが義務付けられるのである。HACCPとは、米国のアポロ宇宙計画の一環として宇宙食の製造のために、米航空宇宙局(NASA)と米陸軍研究所などが共同開発した衛生管理手法の名称で、1985年に米国科学アカデミーが評価を行い、食肉・食鳥肉製造に対してHACCP方式の採用が法制度化されている。また、93年に食品の国際規格を定め多国籍企業の食品貿易を促進させるコーデックス委員会で、食品の衛生管理へのHACCPの導入についてガイドラインが示されてから20年以上経過し、先進国を中心に義務化が進められてきた。
HACCPは「Hazard Analysis and Critical Control Point」の略称で、食品の危害分析・重要管理点方式と訳されている。このシステムは、具体的には次のような内容である。
(1)食品の製造・加工工程のあらゆる段階で発生する恐れのある微生物汚染等の危害について調査分析(HA)
(2)この分析結果にもとづいて、製造工程のどの段階で、どのような対策を講じれば、より安全性が確保された製品を得ることができるかという重要管理事項(CCP)を定める
(3)これが遵守されているかどうかについて常時モニターすることにより、製造工程全般を通じて製品のより一層の安全確保を図る
このシステムを食堂、そば屋、寿司屋、居酒屋などすべての飲食業界に導入することが非現実的であることは明確である。