弁護士の職業倫理
社員弁護士は、この措置に怒った。内示の段階で法務本部長に接触、<本件配転命令がOSZ案件に関する同氏の活動に対する報復人事であり、被告会社の公益通報者保護法第5条違反、及びパワーハラスメントによる職場環境配慮義務違反のおそれが高いと判断した>(訴状)という。そこで同年12月6日、社外取締役らにメールで事態を通報、再調査を依頼。以降、オリンパスの幹部に漏れなくメールを送信したところ、12月20日、メールのアクセス権を奪われ、日常業務も行えなくなった。
そこで提訴に至ったわけだが、社員弁護士が行動を起こしたのは、弁護士職務基本規程第51条に基づくものだ。日本弁護士連合会では、企業や行政庁などの組織に雇用される弁護士が増えたこともあり、04年11月、弁護士職務基本規程を採択した。
第51条は第5章の「組織内弁護士における規律」に含まれているもので、<業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとしていることを知ったときは>は、社内の経営陣や直属の上級者などに<説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとらなければならない>とされている。社員であっても、弁護士としての倫理と規律を優先、見て見ぬふりをしてはならないのである。ところが会社は、勧告した法務本部長を飛ばしたように、社員弁護士に対しては仕事を奪って口封じした。
社員弁護士は今も出勤を続けて、弁護士としての矜恃を守っているものの、私の取材要請に対しては「法廷で決着を付けたいので遠慮したい」とのことだった。
「臭いものに蓋」という企業の論理に直面したとき、社員であると同時に、高い倫理規範を求められる弁護士でもある組織内弁護士はどう動くべきなのか。7年前に巨額粉飾事件を引き起こしたオリンパスは、会社を敵に回して戦う社員弁護士の登場で、再度、その隠蔽体質を問われることになった。
(文=伊藤博敏/ジャーナリスト)