日本では 11年8月に東証で上場され、現時点で23銘柄が上場されている。価格が株価指数や商品価格等の「特定の指標」に連動する商品で、上場株のようにリアルタイムで価格が変動する。まさにハイリスクハイリターンの商品で、欧米ではETF(Exchange Traded Fund、上場投資信託)に準じる人気の金融商品だ。
ただ「Note(債券)」の単語が示すように、金融機関(発行体)がその信用力をもとに、価格が特定の指標に連動することを保証する債券であるため、ETFとは異なり証券に対する裏付資産を持たない。そのため発行体の信用も額面に影響する商品だといえる。
「東京証券取引所でも、ETNは現物の裏付資産を有さず、発行体の金融機関の信用力をもとに発行されているため、発行体の倒産や財務状況の悪化等の影響により、ETNの価格が下落、または無価値となることがあります。こうした発行体の信用リスクについては十分に留意する必要があります」(同)
今回問題となった「NEXT NOTES S&P500 VIX インバースETN」は野村ホールディングスのグループ会社「ノムラ・ヨーロッパ・ファイナンス・エヌ・ブイ」が発行し、野村HDが債務保証した商品で、「VIXインバース指数」に連動し、円換算したものだ。VIX指数は別名「恐怖指数」と呼ばれるもので、米国のシカゴ・オプション取引所が「S&P500」(日本の日経225のような指数)を対象にオプション取引のボラティリティー(変動)をもとに公表している指数だ。インバースは「逆」を意味する言葉で、「S&P500VIX指数」の騰落率が1倍なら-1倍となる。
ENTには規制がない
NPO・日本個人投資家協会の木村喜由理事は次のように語る。
「VIX指数取引は、将来決められた日に決められた価格で売買をするオプション取引の売り手のポジションと非常に構造が似ており、相場が暴落すると急速に損失が膨らむ商品です」
そこで野村HDは前日終値の20%以下になったら早期償還するという条項をつけた。そして同社と東証は説明書などに明記し、投資家に伝えている。したがって違法性はないが、手放しに問題がないとは言いにくい。
「オプション取引の売り方はリスクが大きいために証拠金の差し入れや取引条件が厳しくなっています。しかしENTはそうした規制がない。だから誰もが自由に取引できてしまう」(同)
こうした商品は、証券会社の店頭で販売されている。
「説明書などではきちんと注意喚起されているわけですから法律的には問題ないといえると思います。しかし、誰でも買える商品ですから、窓口の営業担当者が、顧客の投資知識が乏しくても、理解できるようにきちんと説明して販売しているのかどうかが、非常に重要です」(同)
日本は今、戦後最長の好景気のなかで安穏とした雰囲気が蔓延しているが、今後は市場が波乱に満ちた状況になる可能性も否定できない。日本の金融証券市場が発展していくためには、東証や発行元などが、金融商品の特性やリスクを個人投資家に、より丁寧に説明するというルールの徹底が必要である。もちろん個人投資家も、自己責任を意識して投資していかなければならない。「営業担当者に勧められたから」というだけで難しい金融商品に手を出すと、とんでもないしっぺ返しを食らう恐れもある。用心に越したことはない。
(文=松崎隆司/経済ジャーナリスト)