それでも無資格者の完成検査問題は、スバルの急成長と無縁ではないとの見方は強い。スバルの販売は米国を中心に好調で、増産に次ぐ増産に生産現場などの不満は高まっていた。
「吉永社長は営業畑なので(製造の)現場の苦労がわかっていない、という声は聞く」(大手部品メーカー)
そして次期トップ人事をめぐって、社内の不満がさらに高まる可能性がある。
スバルのモデルは水平対向エンジンや四輪駆動(4WD)システムなど、こだわりの技術が特徴なだけに、以前の社内は技術系の発言力が強かった。営業部門が「こういうクルマをつくってくれ」と要望しても無視される状況だ。吉永氏の前、その前の社長も技術畑だ。前任社長は技術畑ながら営業系の仕事も長く担当したこともあって、営業畑出身の吉永氏を後継者に選んだ。相対的に影響力が弱まったスバルの技術系幹部は、吉永氏がスバルの成長をけん引してきた実績があるだけに、不満があっても口を閉ざすしかなかった。
その吉永氏は自分の後継者は営業畑と決めていたようで、周到に準備を進めてきた。2017年6月に技術系トップだった武藤直人氏が退任。残るは製造部門に影響力を持つ近藤会長だったが、無資格者の完成検査問題は製造部門の不正だっただけに、「製造部門が弱っている今がチャンス」とばかりに、営業畑へのバトンタッチを決めた。しかも近藤会長に加え、最高技術責任者の日月氏、製造系を統括していた笠井氏の3人の取締役も姿を消し、吉永氏が院政を敷くのは確実と見られている。
販売は前年割れ
社内で引き続き営業畑の力を保持することに成功した吉永・中村新体制だが、データ改ざんという新たな不正が発覚するなど、浮かれている状況にはない。記者会見で吉永氏は「完成検査工程の抜き取り検査で、データの書き換えが行われていたことがわかった」と述べ、事実関係を認めた。「品質に影響しない範囲で基準値内」と説明するものの、無資格者の完成検査問題に続いて、データを改ざんする行為に、「アイサイト」に代表される安全を売り物にしてきたブランドの失墜は避けられない見通しだ。実際、スバルの国内販売は無資格者の完成検査が発覚した後、 昨年11月から18年2月まで4カ月連続で前年割れが続いている。
次期社長に就任する中村氏は「スバルブランドの方向性をぶれることなく、次の成長に向けて着実な歩みをすべての社員とともに実現していきたい」と硬い表情で述べた。無資格者の完成検査問題や近く調査結果を公表するデータ改ざん問題の影響や、技術系を中心とした社内にくすぶる不平不満を抑えてスバルを安定した成長軌道に乗せるまでの道筋は険しそうだ。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)