大戸屋、客離れ深刻で「負け組」に? 遅い&高い&微妙なメニューがアダに
飲食店チェーン「大戸屋ごはん処」(以下、大戸屋)を運営する大戸屋ホールディングスが2月9日に発表した2018年3月期第3四半期(17年4~12月)の連結決算によると、純利益が前年同期比64.7%減で、営業利益は19.3%減。売上高こそ2.8%増となっているが、客数は3年連続の減少で回復の傾向は見られない。
数年前まで同店はアジアを中心にグローバル展開を進めるなど、外食産業の数少ない勝ち組と呼ばれたが、なぜこのような状況となってしまったのか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏に話を聞いた。
手づくりへのこだわりが裏目に
「まずアウトラインとして押さえておきたいのは、大戸屋の顧客からの認識は“定食屋”だということです。消費者が外食店に期待するものは多様ですが、定食屋である場合、その客層は学生や会社員などの成人男性が多くなります。彼らが期待するものは、待ち時間の短さやコスパ、ボリューム感などです」(有馬氏)
大戸屋は“手づくり料理”をコンセプトとしているが、定食屋というカテゴリーで見た場合、戦略が裏目に出てしまっていると有馬氏。
「大戸屋は、一般的なファミリーレストランなどに見られる、チェーン各店舗の商品を一カ所であらかじめ部分的に調理して提供する “セントラルキッチン”というシステムではなく、店内で調理する方式を採用しています。しかし、それゆえにスタッフのオペレーションは複雑化しやすく、結果として顧客の待ち時間が長くなってしまいます。これでは昼食時に来店する忙しい会社員のニーズには合致しません。また、それによるコスト増と、人件費や材料費の高騰があり、価格帯も上がっています。誰かとの会食ならばともかく、ランチタイムや仕事帰りにひとりで来店するのであれば、コスパ面で顧客を納得させることが難しいというのが現状ではないでしょうか」(同)
かつて同店の主要メニューの多くは600円台だったが、現在ではほとんどの定食メニューが税込800~1000円とかなり値上げされている。確かにこの値段では食事を“ただの補給”と考える学生や男性会社員層を引きつけるのは厳しい。
ライバル「やよい軒」との違い
「さらに大戸屋は、本来定食屋がターゲットとする成人男性に向けてというよりは、魚や野菜といったヘルシーな食材が使用されたメニューを前面に打ち出しており、女性を意識した商品ラインナップにしています。もちろん、今までとは違った定食屋像を目指す意味では間違いとはいい切れませんが、結果が出ていない以上、その方針には疑問符が付きます」(同)
価格帯の近い定食系の外食チェーンに「やよい軒」があるが、こちらのラインナップを見ると、フライなどの揚げ物や肉系といった満腹感やボリューム感のあるメニューが多い印象。加えて、ごはんのおかわりも自由だ。成人男性がどちらに足を運びやすいかは明白といえる。
「創業者逝去による社内騒動で企業イメージが低下したことも大戸屋凋落の要因としてあげられていますが、和食系の定食屋に期待されているメニュー、味、コスパが低下してしまったことでリピーター離れを生んだ主要な原因であると考えられます。開店当時のオーソドックスなメニューと味に加えて、定食屋に期待されるスピード感を持たせることが大戸屋復活の鍵ではないでしょうか」(同)
外食産業の栄枯盛衰はめまぐるしい。それ故に不調に陥ったときは、早い段階でその原因を究明して打開策に取り組む。それが競争の激しい外食産業で生き残る術であろう。
(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)