テイクアウト&デリバリー“最強の容器”開発最前線…こぼれない、家で出来立て料理
緊急事態宣言による営業自粛などで外食産業の苦境は続いている。飲食店は多くの感染防止対策を施しており、自らの力で光明を見いだそうと行動を起こしている。
シェアリングデリバリー業界の大手、出前館が3月に発表した2021年8月期第2四半期(20年9月~21年2月)によると、店舗数は前年比約7.5倍、配達員数は約10倍に増えている。新たなデリバリー専業者の参入に伴い、消費者が自宅で受け取ることができる食品・食材は各段に増えてきた。コロナ禍にあってテイクアウトに加えデリバリーがより身近な存在として活用されていると見受けられる。配達員と歩行者の接触事故や交通法規違反の事例は後を絶たないが、デリバリーというインフラ自体はかなり整備されてきたと実感する。
ファンくる(株式会社ROI)が行ったテイクアウトについての意識調査(21年3月16日~19日実施)では、次の結果になったという(以下、調査結果サマリーより抜粋)。
1:89%の人がコロナ禍でテイクアウトを利用したことがある。
2:62%の人がテイクアウトを継続利用したい。緊急事態宣言前より14%増加。
3:月1回以上テイクアウトを利用する人は24%。週に1回以上利用する人も。
テイクアウトも消費者の身近な手段となっていることがうかがえる。
家にいる時間は長いとはいえ仕事をしているため、自由になる時間は決して多くないというのが在宅勤務(テレワーク)の実情ではないだろうか。そのため、時間を効率よく活用することが在宅勤務では求められている。貴重な息抜き、気分転換が食を楽しむ時間であれば、少しおしゃれなメニューを楽しみたくなる。デリバリーやテイクアウトの利用増加は当然の帰結であり、購入単価の高額化も必然の流れといえよう。
飲食店は、コロナ禍により店内飲食の伸びが見込めない以上、デリバリーやテイクアウトに本腰を入れている。特にテイクアウトはさらに拡充されるべきと筆者は考える。そのためには、
(1)商品ラインアップの拡充
(2)調理後の温度変化を少しでも抑え、料理の質的な向上を図る
ことがカギになる。商品ラインアップの拡充には、いくつかの外食チェーンが客席を持たない実験店舗の開設やコラボ店舗への転換を推進するなどの事例も増えてきた。たとえば、すかいらーくグループの「ガスト」が「から好し」併設店舗の取り組みを今年度全店舗に拡大する。しかし、現状のままではテイクアウトのさらなる拡大は難しい。なぜなら店舗で受け取るタイミングで料理はすでに完成品、すなわち「できたて」として仕上がっているからだ。
冷たい料理や飲料を持ち帰るのであれば、保冷材などの資材は豊富だ。一方、温かい料理は持ち帰りによる時間経過に伴い冷えてしまい、自宅での味の再現性は残念ながら高くない。
場所にかかわらず温かい料理
ひとつの解決方法として、自宅到着後に仕上がるという容器の活用が挙げられる。筆者は4月21~23日に東京で開催された業務用「食」の見本市「ファベックス2021」を訪問し、新しいタイプの容器をいくつか発見した。
北海製箸の「加熱容器E-HOT熱いがおいしい!」。昔、紐の付いた駅弁があった。紐を引くと加熱が始まり、あつあつの駅弁が出来上がる。今でこそ身近な存在になっている、使い捨てカイロの発熱原理を応用した商品である。この最新バージョンと思えるのが、この加熱容器だ。
テイクアウトやデリバリーに好適と銘打った商品であるが、筆者は新たな可能性も感じ取った。防災備品としても秀逸ではないか。防災食として温めなくても食べられるカレーが商品化されているが、やはり温かい食べ物は貴重な存在である。この容器を使うことで、場所にかかわらず温かい料理を食べることができる。
時間を逆算して容器に水を入れる仕組みになっており、中に入れる推奨商品は今のところ限られているが、容器に併せて商品自体も進化を遂げていくに違いない。
次に、Relocks Japanの“最強テイクアウト容器”。秀逸と感じたのは2点だ。第1は、液漏れ防止機能がついている容器。ラーメンや汁物のテイクアウトにピッタリで、横にしても漏れない容器は、持ち運ぶ際の心配を軽減してくれる。何よりもふたを止めるロック機能が簡単で便利だ。この容器を活用することで、テイクアウトやデリバリーの取り扱う商材がかなり広がると感じた。
第2に、蓋がしっかりと止まる仕様。輸送中に斜めに力が加わっても蓋が外れることはなく、そのため容器の強度がしっかりと確保され、積み重ねも可能。汎用性は非常に高いと感じた。基本はワンウェイなのだが、丈夫な造りになっているので自宅で再利用できることも大きな利点だ。
受益者は社会全体
一定の機能が付与された容器をお客に無料で提供すれば、事業者側の負担するコストは大幅にアップしてしまう。容器のコストアップ分をお客に転嫁できなければ、料理の質を落とすか、容器メーカーが値下げを強いられるかの二択になってしまう。新しい容器開発にかかる費用は、当然必要なコストとして利益を享受する消費者と事業者が負担すべきものだ。そうでなければ新しい容器の開発や進化は望めなくなる。
輸送に伴い荷崩れや片寄りが懸念される商材、例えばお寿司や飾り付けに技巧を凝らした料理などにも対応可能な容器が出来れば、テイクアウトに加えデリバリー業者が取り扱う商品もさらに拡大することになる。
また、こぼれる、濡れることでデリバリーやテイクアウトに不向きな商材であったラーメンなどの麺類も、新しい容器の登場により販路は拡大するだろう。従前はラーメンとスープを別袋に入れて販売していた店舗は存在したが、自宅での味の再現性は低くなっていた。“お店の味わい”を少しでも家庭に届けようと、最近は有名店の名を冠したカップ麺が多く市場に流通するようになった。
コロナとはこれから数年はご縁が続きそうだ。外食から中食に消費の軸足が移れば、消費者のウォンツに併せた容器などツールの開発が重要な役割を担う。
その第一の受益者は消費者ではないか。自宅に居ながらにして料理をおいしく楽しむという利益を享受できる。その利益を享受するために必要となるコストを負担すべきではないか。
第二の受益者は飲食店だろう。お客に届けるために必要となる容器の開発、そして進化は欠かせない。容器という選択肢の拡大は、届けることが可能な料理の拡大に寄与する。店舗の利益も拡大するだけにとどまらず、つくり手の想像力をも助力する。
第三の受益者は社会全体ではないだろうか。料理を運んで、そのまま捨てられていた容器。家庭で新しい活躍の場を与えられる容器もあれば、リサイクルされ新しい使命を持ち生まれ変わる容器もある。ファベックスに使われていたサインボードなどは、すべてリサイクル可能な商材だという。またこのサインボードを制作したメーカーは、同じ想いを持ち弁当箱などの各種容器も制作している。
三方よしとなる循環型社会、そして持続可能な社会を構築するためには、必要な費用を受益者全員が広く負担する仕組みが基本となるべきであろう。なぜなら「食」に限らず、さまざまな「資源」は有限であるからだ。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)