非正規労働者は全労働者の4割を占めるまでになっているが、一方で正規労働者でも賃金の上昇は望めない。物価は上昇を続け、支出に占める食費の割合(エンゲル係数)はここ数年にわたって上昇を続けている。
生活に必要な支出は、食費だけではない。水道光熱費や住居費、最近ならインターネット・携帯電話などの通信費も必要不可欠だ。それらを賄えても、子供の教育にかける資金だって必要になる。子供が小さいうちは教育費もそれほどかからないが、成長するにつれて教育費は膨らむ。子供にかかる支出は、今や大きな負担になる。
今般、男女共働きは珍しくなくなったが、そんな共働きを阻む壁が、保育園に入園できない問題。いわゆる、待機児童問題だ。子供を保育園に預けられないと、職場に復帰することは叶わない。保育園の抽選に落ちた場合、主に母親がキャリアを諦めるケースが目立つ。母親といえども、立派に家庭内の経済を支えていることには変わりはない。保活に失敗すれば、収入は激減。将来の資産形成にも大きな影響が出る。待機児童問題を担当する東京都職員は、こう話す。
「人口減少社会といわれる昨今でも、東京都の人口は他県からの流入によって増加しています。特に著しいのが30代です。この世代は、未就学児童を抱えていることがほとんどです。また、世代的にも共働きが当たり前です。そのため、保育園の入園希望者数も入園倍率も増加の一途で、どんなに保育園をつくっても待機児童が解消されない、まるで底なし沼のような感じです」
現在の産業界は完全な人手不足。女性の労働力がなければ、日本経済は回らない状況にある。そうした事情もあり、行政も待機児童問題を放置するわけにはいかない。
各自治体の取り組み
待機児童問題といっても、入園希望が殺到しているのは認可保育所ばかりだ。その理由は、なんといっても保育料の安さにある。住んでいる自治体や世帯収入、預ける子供が第1子なのか第2子なのかといった諸条件で保育料は変わる。それでも、認可保育所の保育料は圧倒的に格安になっている。
そうした認可保育所に希望者が集中する。地方自治体も認可保育所以外に分散させようと、さまざまな策を講じている。
たとえば、千代田区の場合、認可保育所への入園申し込みをせず、認証保育所のみに申し込みをすると「認証単願」という扱いになる。認証単願の場合は、手厚い補助により認可保育所よりも保育料は安くなる仕組みだ。保育料が安ければ、認可保育所に集中していた入園申し込みが分散される。
また、江戸川区は保育所というハード面の整備ばかりではなく、人手面に着目。保育士の賃金は一般的な正規雇用と比べても低く、人材が集まりにくい環境にあった。
「そうした保育士の人手不足を解消するために、江戸川区は事業者に対して保育士の処遇改善を目的にした補助金を支給しています。これらは事業者を通じて、保育士の住宅費補助などに充てられています」(江戸川区職員)