今の「大戸屋」は30代から50代のサラリーマンが敬遠?
一方、重盛氏が心配するのがやはり大戸屋である。
「客離れの原因としてまず考えられるのは、店側が打ち出す政策と消費者の間に生じているギャップです。例えば、大戸屋のウリでもある“店内調理”は、つくり手の顔が見えることで、安心感や手づくり感による健康的なイメージを消費者に与えることが狙いだと予想されます。
しかし、食の安全や健康を気にするのは、定食屋のメインユーザーである30代から50代のサラリーマンではなく、20代から40代の女性とされていますので、メインターゲットからはズレた取り組みだと思われます。健康志向の食材へのこだわりによりメニュー単価が上がり、“早い・安い・うまい”を求める30代から50代のサラリーマンの足が遠のいてしまっているのでしょう」(同)
さらに重盛氏は、大戸屋が定食屋のイメージから逸れていることも指摘する。
「庶民的で入りやすい雰囲気や店員の気さくな接客が定食屋の魅力でもありますので、大戸屋のモダンな外観や、一部の店舗で実施されているセルフレジとタブレット端末での注文は、本来の定食屋のイメージとはかけ離れています。特に、セルフレジとタブレット端末は、使いこなせる世代も限られてくるでしょうから、敷居の高いイメージを植え付けてしまう可能性もあるでしょう」(同)
17年6月より将来的な人事削減のためとして、セルフレジとタブレット端末を一部の店舗に導入した大戸屋。だが、30代から50代のメインユーザーにとって、“ほぼ接客がない定食屋”は味気なく感じるのも無理はなく、こういった定食屋独自の付加価値を失いつつある点が客離れを招いたのかもしれない。
「最近では、安くて美味しいお店ならいくらでもありますので、定食屋として安定した売り上げを維持するのが難しい時代なのです。大戸屋のように、手の込んだ調理方法を継続する代わりに、接客を減らしてセルフレジとタブレット端末を導入したり、800円台の定食がメニューの大半を占めていては、消費者との温度差は埋められません。利用客層と店側の取り組みをすり合わせないことには、現状を抜け出せないと考えられます」(同)
「大戸屋」は600円台定食の復活などで“原点回帰”すべき
では今後、大戸屋が巻き返しを図るにはどうすべきなのだろうか?
「一言で言うなら、定食屋として“原点回帰”する方向に舵を切るべきでしょう。現在の大戸屋は800円台の定食メニューが多いですが、これはやはり少々高い印象があり、客離れの大きな要因です。ただ、大戸屋も昔から高めの設定だったわけではなく、かつては600円台の定食メニューも豊富でした。ですから、全体的に定食メニューの価格帯を600円台に戻すようにすべきだと思います」(同)
確かに、例えばやよい軒では「サバの塩焼定食」が630円(税込・以下同)、「しょうが焼定食」が630円なのに対し、大戸屋では「さばの炭火焼き定食」が849円、「たっぷりキャベツと四元豚ロースの生姜焼き定食」が898円。類似の定食にもかかわらず200円以上の開きが出ているのだ。
しかも、やよい軒はそのリーズナブルさで白米おかわり自由であるため、確実に満腹感も得られることは想像に難くない。大戸屋は食材や調理方法にこだわっていて味はいいが、それでもやよい軒とのこの価格差は客足を遠のける理由として充分だろう。
重盛氏は大戸屋に対して、「やよい軒のように白米おかわり自由にするなど、量をカスタマイズできるようなシステムを導入するのもいいのでは」とも分析する。いずれにしても、大戸屋が定食屋チェーン店戦争で再び地位を盤石にするには、“昔ながらの定食屋”のイメージを取り戻しつつ、どこまで消費者のニーズに順応できるかにかかっているのかもしれない。
(取材・文=A4studio)