「渡辺憎し」
創業家の豊田章一郎名誉会長は、子息である章男氏を評価しない渡辺氏を疑問視。そこにリーマンショックによる金融危機の影響でトヨタが2009年3月期に71年ぶりに最終赤字に転落すると、ここがチャンスとばかりに渡辺氏を更迭、章男氏を社長に据えることに成功した。渡辺氏は社長出身でありながら会長にもなれず、社長退任後も冷遇され続けた。トップを奪取しながらも章男氏の「渡辺憎し」の炎は消えず、それがいすずとの提携事業にも影響したという。実際「章男社長に、いすずとの協業案件を持ち出すと、とたんに不機嫌になると言う社員はいる」という。結果的に、いすずとの協業は棚上げされ、株式は持ち続けながら協業の成果は実質ゼロという状態が長く続いた。
ここにきて提携解消に動いたのには、7月に章男社長が、力を持つOBの大量粛清を断行したことがある。トヨタは7月1日付けで61人いた名誉会長や相談役、顧問を9人にまで減らした。退任したのは元社長の奥田碩氏、渡辺氏など、有力OBだ。顧問として残った9人は、93歳の章一郎名誉会長や、章男氏の社長昇格の最大功労者である張富士夫相談役など、章男氏と関係が深い人脈が中心。海外の投資家などが大企業の不透明な相談役・顧問制度を問題視しているのにかこつけて「章男社長が邪魔者を排除した」と見られている。そして有力OBが不在となったことでトヨタは、いすずとの資本提携を解消。トヨタの歴史から渡辺氏の功績を完全に抹消した。
一方のいすずは、これまでトヨタに協業を打診してきたものの、ことごとく袖にされてきただけに、資本提携解消の申し出もすんなり受け入れた。ただ、トヨタとの提携でもっとも大きな効果は「他社からの敵対的な買収を防止できた」(いすず)ことだけに、今後、単独で生き残るには不安が残る。いすずはトヨタと資本提携しながらも、GMと米国事業など相次いで協業するなど、トヨタとの提携解消後を視野に入れた動きを進めてきた。今後、GMと再び資本提携に動くのかは見通せないが、商用車業界の再編は続く。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)