振り返ると、高度経済成長時代に確立した事業モデルが、90年代以降の急激な需要構造の変化に耐えきれずに破綻。それにもかかわらず抜本的な事業構造改革を先送りにし、その場しのぎの「リストラ」で切り抜けようとした大企業病体質が、市況に業績を翻弄され続けた約20年だったといえる。
近年の同社のIR資料には事業構造の再構築、選択と集中、競争力強化、意思決定迅速化など、なんとか大企業病体質を改善しようとの努力をうかがわせる用語が頻出しているが、社員の一人は「組織や制度がコロコロ変わるだけで、『意思決定ができない会議』など体質は90年代と基本的に何も変わっていない」と打ち明けている。
●ガラパゴス的な新中計
今回の新中計について、業界関係者の一人は「海外では通用しないガラパゴス的なプラン。こんな内容でグローバルメジャープレーヤーになれるとは思えない」と評し、次のように分析する。
「総合電機メーカーなので同社の事業領域は幅広いが、セグメント的には売上高が突出した部門がなく、良い意味でリスク分散型の事業ポートフォリオになっている。しかし、実態は個別事業の寄せ集めに近い。つまり事業間の関連性が薄く、ポートフォリオの相乗効果を発揮しにくいのが同社の事業構造の特徴になっている」
この特徴は守りには強い。プラズマディスプレイに資源を集中投資したパナソニックや、液晶事業に資源を集中投資したシャープが瀕死状態に陥っている状況をみれば明らかだ。
だがリスク分散型で突出した部門がないということは、低収益の裏返しでもある。12年度の9兆410億円という連結売上高は、電機大手の中で唯一グローバルプレーヤーの仲間入りができる規模(売上高10兆円以上がグローバルプレーヤーの要件といわれている)だが、4.7%という営業利益率は、米GEの10%超(12年通年)や独シーメンスの9%台(12年9月通期)などと比べると見劣りする。
また、新中計では「グローバルな社会イノベーション事業の強化」をうたい、クラウド、ビジネスインテリジェンス、オープンイノベーションなど、グローバル化を意識したかのようにカタカナの文言が目白押し。だが、要は原発、鉄道などの社会インフラ事業を海外で強化するということだが、この分野は世界のグローバルプレーヤーがこぞってテコ入れしている競争の激しい分野。収益力に差があれば、M&Aや設備投資の資金力にも差が出る。この差をどう縮めるのか。その前に、受注競争においてGEやシーメンスとどのような差別化を図るのか。こうした肝心の施策について、新中計では明らかにされていない。
新中計では海外人員を増員してサービス力を強化するとしているが、GEやシーメンスがもう何年も前から行っていることであり、今回の新中計も「あれやこれやの日本的な総花的な内容。グローバルプレーヤーやイノベーションとはほど遠い」(業界関係者)という声も聞かれる。
ガラパゴス的なプランでも、国内では高評価を受けている日立製作所。果たしてグローバル市場でグローバルプレーヤーとの評価を受けられるようになるのか。今後に注目が集まる。
(文=福井晋/フリーライター)