「かつや豊洲店」、渋谷のSPF豚の某有名店…訪問して見えた「とんかつ」の“無限の進化”
全国7都府県で緊急事態宣言が発令中だが、日本フードサービス協会が7月26日に発表した6月の外食産業市場動向調査によると、ファストフード業態全体としては、売上は対前年比109.1%(一昨年比では96.8%)と健闘したものの、ファミリーレストラン業態は全体的に酒類提供の自粛や時短営業が影響し、売上は同88.4%(一昨年比では64.2%)となっている。
コロナ禍が1年半以上におよび、多くの飲食店が休廃業を選択せざるを得ないケースが増えている。ファミレスでは業態転換したり複合型店舗に転換するなど対応の選択肢が存在するが、多くの中小店舗が同様の投資をできる状況ではない。
帝国データバンクが7月28日に発表した「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査によると、「新型コロナウイルス関連倒産は1812件(2021年は964件)となっている。業種別では「飲食店」が302件、「建設・工事業」が178件、「ホテル・旅館」が100件、「食品卸」は96件。「建設・工事業」は飲食店・小売店の休業や倒産増の影響を大きく受けてきたほか、ウッドショックによる資材の高騰・調達難の影響が出始めているという。
筆者の地元である東京・豊洲においてもコロナ関連の転廃業が相次いでいる。どちらかといえば、閉店がより目につく。そのなかでも新規開店の象徴として今回ご紹介するのが、アークランドサービスホールディングスが運営する「かつや豊洲店」。7月26日に江東区に初出店した。場所は駅から徒歩2分、1月に突然閉店した「つけ麺さとう」の跡地だ。
「かつや」と「からやま」の目玉商品を同一店舗で提供
イートインが苦戦を強いられるなか、各社が中食・内食需要を取り込もうと取り組みを拡大するなかで、特に自宅での再現が難しいメニューは好調に推移している。唐揚げが注目を集める中で、「とんかつ」も熱き戦いを繰り広げている。同店は20時までが通常営業、20時以降はテイクアウトのみ営業している。新規開店後日が浅いが、連日テイクアウトを待つ顧客は列をなしている(画像参照)。
「とんかつ」は冷凍ものを揚げて提供するコンビニ型と、チルド肉にパン粉をまぶして店舗で揚げる専門店型と2つに分かれる。「かつや」は後者の専門店型だ。
昨今では冷凍技術も進化し、冷凍のほうが劣るという事例も少なくなってきた。冷凍のほうがパン粉のエッジが効いて美味しい、という声も聞かれる。かつや豊洲店では、定番のとんかつに加え「からあげ」や「ポテトコロッケ」も取り扱っている。東京都新橋駅前のSL広場では「かつや」と「からやま」の2店舗体制で営業しているが、ここ豊洲店では両ブランドの目玉商品をラインアップに加えている。
豊洲エリアには、チェーンのとんかつ専門店としてリンガーハットが運営する「とんかつ大學」がイオン東雲ショッピングセンターにある。フードコート内の店舗であるが、こちらもミスタードーナツが2018年に退店したあとの場所に展開している。
とんかつ大學は、フードコート内の他店と同様に無線呼び出しのシステムを活用している。注文した商品が出来上がると手元のブザーが鳴り、店舗に取りに行く仕組みになっている。同店も注文を受けてから揚げ始める専門店型のスタイルだ。
コロナ禍による在宅ワークなどで巣ごもりする人が多いと一般的に分析されているが、「とんかつ」はそうそう自宅で積極的につくろうという料理ではない。とんかつは唐揚げとならんで揚げ物の2大巨頭であり、誰もが好きなメニュー。ただし、片付けが大変なので中食が嗜好され、テイクアウト需要を牽引している食材といわれている。
ちなみに商品名によく見かける「三元豚」は、3種類の品種を掛け合わせて生産された豚のことを指す。どの品種を掛け合わせるかは生産者により異なるが、各品種の持つ長所を組み合わせた優良な豚といえる。例えば、ランドレースや大ヨークシャー、デュロックなどがある。
「とんかつ」は冷蔵、冷凍の2種あるが、「衣を味わう派」と「肉を味わう派」が存在する。またロース、ヒレなど使用される豚肉の部位によっても味わいは異なる。最近はやりの三元豚や四元豚、SPF豚など、種類によっても味わいだけでなく食し方も大きく異なる。
SPF豚
筆者は7月30日、SPF豚で有名な渋谷のとんかつ店を訪問した。同店は注文を受けてからチルド肉に衣を付けて揚げるスタイルを採っている。そのため、注文してから商品が提供されるまでに10分から15分ほどかかる。衣は薄く、肉を味わう「とんかつ」という印象を受ける。揚げたてで提供されるが、時間経過により肉に余熱が加わり、口当たりが変化してくる。
「最初は岩塩で食べてみてください」と店員よりアドバイスをいただいた。なるほどソースをざっと全体にかけてしまうと、肉の味わいがソースで消されてしまうというわけなのだろう。
やはり肉を知っている店舗は、推奨する味わい方を伝えてくれる。余熱により変化する肉の味わいを楽しみながら、じっくりと肉と語り合う時間を過ごすことができた。
日本SPF豚協会はHP上で次のように説明している。
「SPFとはSpecific(特定の) Pathogen(病原体) Free(無い)の略で、あらかじめ指定された病原体を持っていないという意味です。(中略)SPFポークは筋肉のきめが細かく、保水性も高いのでうまみを逃さず調理でき、加熱してあくが出にくく、冷めても固くなりません。また、臭みがなくて脂の質がよいのであっさりしていて、しゃぶしゃぶなど素材を活かした食べ方がおススメです」
期待されるデリバリーの発展
「かつや」を運営するアークランドサービスホールディングスのホームページには、積極的な出店戦略が見て取れる。7月のリリースだけでも「かつや」3店舗、「からあげ縁」4店舗、「からやま」「ごちとん」「東京とろろそば」が各1店舗の計10店の新規出店が掲載されている。また21年12月期第2四半期決算短信について、こう記している。
「当第2四半期末の総店舗数は純増16店舗の712店舗となりました。当第2四半期連結累計期間の業績は、売上高21,165百万円(前期比26.8%増)、営業利益2,282百万円(前期比14.8%増)、経常利益3,966百万円 (前期比94.8%増)、親会社株主に帰属する四半期純利益2,513百万円(前期比111.1%増)となりました」
今年度上期の好調さと特色がわかる。「かつや」は売上は前期比103.1%、テイクアウト比率53.4%。「からやま」は売上は同105.5%、テイクアウト比率は61.0%。テイクアウト需要の取り組みが、好調な数字に反映されている。
今回は「かつや豊洲店」を紹介したが、コロナ禍などによる退店後の空いた場所は、同業他社にも魅力的な物件と映るのだろう。長年地元で親しまれていた店舗が閉店するのは寂しいことであるが、新しい店舗との出合いもまた刺激的な出来事ではないだろうか。同店舗の至近に所在するマクドナルドと並んで、地域住民の外食・中食生活の向上にとても役立つであろう。
緊急事態宣言がこれからも継続するなか、各チェーンが消費者に対してテイクアウトを中心にさまざまなアプローチを展開している。どのアプローチが自分にとりベターなのか。どの商品が自分にとり最適なのか。テイクアウトやデリバリーが加速しているなかで、消費者サイドにおいても選択眼を養う必要もあるだろう。
今年2月3日には一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会が設立され、会員にはUber Eats Japanや出前館も名を連ねている。身近な存在となったデリバリーは、交通法規違反や歩行者との接触事故など問題点もクローズアップされているが、今や飲食店と消費者にとってなくては困る存在となっている。新しい生活様式に寄り添い、食のインフラのひとつとして健全な形で発展していくことが望まれる。同協会と加盟各社の今後の取り組みからも目が離せない。
(写真・文=重盛高雄/フードアナリスト)