この世の春を謳歌する日立製作所に、2つの火種がくすぶっている。三菱重工業との火力発電事業での訴訟と、英国の原子力発電所プロジェクトだ。好業績に加え、中西宏明会長が経団連会長に就任したことで名実ともに「日本の顔」としての存在感が増すが、その基盤は盤石ではない。
「収益構造としては、頭ひとつ抜け出した」
電機業界に詳しい証券アナリストは、日立が7月末に発表した2018年4-6月期決算をこう語る。営業利益、純利益いずれも過去最高。19年3月期の通期見通しこそ据え置いたが、中間決算時にも上方修正する可能性が高い。
主要7部門の内、建機など4部門で営業利益200億円以上を稼ぎ出す。ここ数年間進めてきた構造改革効果が、確実に数字に直結している格好だ。
確立しつつあるコングロマリット経営
経済誌記者は「ずばぬけて強い事業があるわけでないが、ひとつの事業に依存せずに収益性が高い事業を抱えている。コングロマリット経営を確立しつつあり、リスク耐性が高い」と指摘する。米中の貿易摩擦リスクに怯える企業もあるが、西山光秋執行役専務は「(日立の業績には)大きなインパクトにならないと思う」とどこ吹く風だ。
とはいえ、懸念がまったくないわけではない。ひとつが三菱重工との火力事業での訴訟だ。14年に日立は三菱重工と火力発電事業を、合弁会社の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)に統合した。設立時は世界一の火力発電機器メーカーになること、20年の売上高2兆円を目指したが、足元の売上高は約1兆円。世界的な環境規制への高まりから逆風が吹き、すでにジリ貧状態にある。
日立にとっては火力事業そのものがリスクになっているが、さらに追い打ちをかけるのが合弁相手の三菱重工の動き。統合前に南アフリカで日立が受注した発電所向けボイラーの建設コストが、受注時の計画より膨らんでおり、その費用を負担するよう支払いを要求してきたのだ。当初、3790億円を請求していたが、7700億円にまで引き上げた。これを日立が拒否し、外部機関に仲裁を委ねる事態に発展している。
日立は一定の引当金を積んではいるものの、その額は3000億円程度と見られている。満額での支払いとなると4000億円以上の損失が発生するリスクを抱える。
どんどん膨らみ続ける工費――英原発プロジェクト
南アの訴訟以上に日立の屋台骨を揺るがしかねないのが英原発プロジェクトだ。日立は英国政府と英中西部アングルシー島で原発の新設を計画している。19年中の最終契約に向け、詳細を詰めるが、当初計画よりも総工費が膨らんで最大3兆円に達する見通しだ。