ソフトバンクが狙う、トヨタのブランド力と政治力
中国の滴滴出行、インドのオラのほか、トヨタが出資しているウーバー、グラブのライドシェア大手4社の筆頭株主となっているのがソフトバンクだ。4社で世界のライドシェアの利用回数の9割のシェアを握っており、ソフトバンクは世界のライドシェアを結ぶ中枢の役割を担っている。
ソフトバンクがライドシェア大手に積極的に投資しているのは、もっとも注力しているAI(人工知能)の性能向上に、自動車から得られる大量のデータを有効活用できるからだ。自動車はカメラなどのセンサーを多数搭載しており、クルマから収集できる大量のデータは、AIを高度化する上で重要で、孫氏は「自動車は将来、半導体の塊になる」と見る。世界中を走り回るライドシェア車両から大量のデータを収集できれば、AIの高度化や新しいモビリティサービスに活用できる。
世界のライドシェア車両から集まるデータを一手に集める立場となったソフトバンクの存在に焦ったのが、モビリティサービスで主導権を持ちたいトヨタだ。ソフトバンクはすでに、ホンダとAIの開発で協業しているほか、米ゼネラルモーターズ(GM)のライドシェア専用自動運転車の開発会社にも約2割出資している。ホンダとGMは提携しているだけに、仮にモビリティサービス領域でソフトバンクとGM・ホンダ連合ができれば、トヨタは蚊帳の外に置かれる。
トヨタのこうした危機感が、ソフトバンクとの提携に駆り立てた。
「トヨタがクルマをつくる会社であったときには、実現しなかったソフトバンクとの提携が、モビリティカンパニーを目指そうと考えたときには必要不可欠なものになっていた」(豊田社長)
一方、トヨタからの協業の申し入れの感想を聞かれた孫氏は、「はじめはマジか?と思ったが、その後、ついにこのときが来たかという感じ」と、余裕の表情だ。過去、業界や行政と軋轢を起こしながら成長してきたソフトバンクにとって、トヨタは日本国内での政治力やブランドの面で利用価値は大きいだけに、提携は願ったり叶ったりだ。
ソフトバンクが今年7月に開催した法人向けイベントで、孫氏は「既存のタクシー業界を守るため、未来への進化を自分で止めている。そんなバカな国があることが信じられない」と、ライドシェアを禁止している日本政府を強く批判した。世界的にライドシェアは普及してきているが、国土交通省では、一般のドライバーが有償で人を運ぶライドシェアは道路運送法に違反するとして禁止している。孫氏はライドシェアが自動車の効率的な利用につながり、渋滞問題解消にも寄与するとして、ライドシェア解禁を訴えてきたが、タクシー業界の権益を守る国土交通省の姿勢は頑な。ソフトバンクは仕方なく、中国のライドシェア大手の滴滴と、日本でタクシー配車アプリサービスを合弁で開始した。