一方で施設内の老朽化問題にも直面する。たとえば人工温泉大浴場もあり人気だが、新しくできたホテルに比べると見劣りする。「大浴場のリニューアルも考えている」(海野氏)というが、通常営業するなかでの改築となると、リニューアル工事の時期は難しい。
それでも、同ホテルの過去3年間の宿泊人数は、年間で3000~4500人ずつ増えた。好調を支えるのは「観光」需要と「インバウンド」(訪日外国人)需要だ。観光では国営ひたち海浜公園の、春の「ネモフィラ」や秋の「コキア」など植物群の景観が人気を呼ぶ。インバウンドは東南アジアからの宿泊需要が高まり、香港や台湾などの旅行代理店とも契約した。
「たとえば『ひたち海浜公園の入場券付宿泊プラン』は、入場券を買うために並ぶ時間が必要ないので人気です。その半面、設備の老朽化は悩ましい問題ですが、お客さまの快適性を高めるために、何をいつ行うかを社内で議論し、取り組んでいます」(同)
好評企画のブラッシュアップにも取り組む。インバウンド客への日本文化体験として始めた「夜鳴きソバ」の無料サービス(宿泊客なら夜9時半から10時の間に食べられる)は、1年前から中華調理人のこだわりを入れたラーメンに進化させた。
消費者は「何を求めて」ホテルを選ぶか?
筆者が多くの業界を取材して感じるのが、送り手が思うほど受け手(消費者)は「業態」や「業際」を意識しないこと。近年、その傾向は強まっている。
たとえばホテル選びでも、出張で泊まって印象のよかったビジネスホテルに、家族旅行やカップル旅行で泊まるケースも目立つ。その場合のホテル選びは、どんな旅行をするかによるが、各種調査の結果では「価格」「食事」「部屋の雰囲気」「利便性」などが挙げられる。
「大浴場がある」を選ぶ人も多い。一方で「ユニットバス」人気は下落気味だ。大浴場は設置できないが、トイレとバスルームを別々に設置するビジネスホテルもある。
ホテルは「幸せ産業」という思いを持つ
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
また、ビジネス業態には「幸せ産業」「不幸産業」という視点もある。たとえば、そこで楽しく飲食するカフェやレストランは幸せ産業。家族や友人と泊まったり、疲れを癒したりするホテルも幸せ産業になる。治安の悪い場所や戦火に追われる地域では成り立ちにくい。
同社もその意識を抱くようで、社員の名刺に記されているのが「SMILE EXPERIENCE」(笑顔体験=笑顔で過ごせる場所でありたい)というフレーズだ。
「お客さまから『シーツのにおいが気になる』というクレームを頂いたことがあります。担当する女性社員から、『取引先のリネン会社の工場を見てきていいですか?』という提案があり、行ってもらいました。作業現場を直接見ることで根本的な解決につなげようという意識で、こうした自走できる人材が増えるのも目標です」と海野氏は語る。
消費者の不満と向き合い、かけられる予算なども踏まえ「どこの/なんの要望にこたえるか」も大切だ。そうした改善をし続けた企業こそが「顧客満足」を上げられるのだろう。