「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
飛行機や特急電車など公共交通機関の高速化につれて、仕事の出張事情も様変わりした。
たとえば東京駅・新大阪駅間は、東海道新幹線「のぞみ号」で約2時間半となり、両地区に勤務する人の大阪出張(あるいは東京出張)の日帰り移動は当たり前だ。東京地区から札幌や福岡に行く場合も日帰りが珍しくなく、そのほかの地方都市でも事情は変わらない。
それにつれて、仕事を終えたら現地で食事&宿泊という出張の楽しみも減った。以前、大手ビール会社を取材した際、「新大阪駅では当社のビールが売れる。帰途の車中で楽しむ方が多いようだ」という話も耳にした。昔なら居酒屋で乾杯していたお客もいるのだろう。
そうなると、日帰り圏内の地方都市にあるビジネスホテルは稼働率低下に苦しみそうだが、集客増のホテルも存在する。その違いはどこにあるのか。今回は、北関東にあるホテルの事例を基に分析したい。
東京通勤圏内で90%超の稼働率
「テラス イン 勝田」というホテルが茨城県ひたちなか市にある。2012年に開業した新しいホテルで、場所はJR勝田駅東口を降りてすぐの駅前ロータリー沿いだ(冒頭の画像)。ちなみに勝田駅は、東京駅から常磐線の特急に乗れば約1時間20分で着く。
そんな東京通勤圏のビジネスホテルだが、17年の年間稼働率は実に「92%」に上る。一般にホテルの稼働率は「85%で満室」といわれるので、フル稼働の人気ぶりだ。
「開業時から利用してきたが、最近は海外からのお客さんの宿泊用に部屋を確保しようとしても、予約が取れないこともある」と地元企業の役員は話す。人気の要因はどこにあるのか。
「主に、月曜から金曜はビジネス利用客、土日祝日はレジャー観光客の方にご利用いただきます。お客さまからは『駅前にあり、飲食街が近い』という利便性のほか、当ホテルの取り組みもご評価いただいています」(運営会社、株式会社長寿荘の代表取締役社長・海野泰司氏)
インターネットの旅行サイトでの人気も高い。本稿執筆時に複数サイトで利用客の評価を調べたら、「5段階で4.5」だった。たとえば「朝食のごはんや卵」「軽いのに温かいかけ布団」などが好評だ。後述する利用客の「声」にこたえ続けた結果といえそうだ。
県内の「5つのホテル」を状況に応じて訴求
運営する長寿荘は1951年、勝田市(現ひたちなか市)の本社所在地に、鉱泉旅館を創業したのが始まりだ。その後、高度経済成長の波にも乗ってホテル業に進化し、先代(故人。海野氏の父)が興した「ホテル クリスタルパレス」と「ホテル クリスタルプラザ」(いずれもひたちなか市)が、長年地元で親しまれている。
さらに、2008年に社長に就任した海野氏が「ホテル テラス ザ ガーデン水戸」(水戸市)、「ホテル テラス ザ スクエア日立」(日立市)、「テラス イン 勝田」(ひたちなか市)の「テラス」ブランドを新たに開発・整備。茨城県内で新旧合わせて5つのホテルを運営する。