「各ブランドは、立地や施設によって訴求を変えます。たとえば県都である水戸市の表玄関・JR水戸駅前の『テラス ザ ガーデン』は、宿泊以外に披露宴と中宴会需要の獲得もめざしています。一方、勝田駅前の『テラス イン』は、ほぼ宿泊需要に特化。館内に『レストラン米壽』もあり会食のご利用も多いですが、大中の宴会には向きません」(同)
海野氏が語る「中宴会」は、他業界の人にはなじみが薄いが、どういうことか。
「参加数40~100人規模のパーティーや宴会です。水戸市には『水戸プラザホテル』のような、ハイエンド(最高級のラグジュアリーに次ぐ高級)な大規模ホテルもあり、長年、地元政財界の方に選ばれてきました。当社はもう少し小規模な宴会を訴求しています」
競合相手の得意な土俵以外で戦う戦略だ。「テラス ザ ガーデン」も稼働率は87%超(2017年実績)と満室状態。宴会需要も好調で、同社のホテル事業の稼ぎ頭となっている。
利用客の「声」を「改善内容」にして訴求
一般に新開業したホテルは「開業景気」が一段落すると、宿泊需要が落ち込む。勝田駅前の「テラス イン」で興味深いのは、「20の扉」と呼ぶ、大小の改革。これは「利用客の声」を「改善内容」に変えたもので、一例を紹介すると以下の内容だ。
※左は「利用客の声」、右は「具体的な改善内容」
・朝はゆっくりしたい → のんびり12時チェックアウト
・部屋でひと息リフレッシュしたい → フリーミネラルウォーター(宿泊人数分)
・部屋の臭いが気になる → 全室プロ仕様の「消臭剤」(清水香)を設置
・アラームだけで起きられるか不安 → アラームと連動して部屋のライトが点灯
・ビジネスホテルのテレビは小さくて物足りない → 32インチ・大型薄型テレビを設置(CNN視聴可)
・夜間トイレに起きた時、バスルームの段差につまづく → 段差なしバスルームのユニバーサル設計
多額の設備投資が必要なものもあれば、さほど費用がかからず実行できたものもある。
「お客さまのご意見やアンケートだけでなく、その声の裏にある潜在的な要望も探求しています。駅前立地の好環境に甘んじていては、生き残れない時代ですから」(海野氏)
価格設定も重要だ。ビジネス需要では、日立製作所や日立ビルシステムなど、日立グループ関係者の利用が多い同ホテルは、超繁忙期を除き「1泊朝食付き8000円」が目安だ。これは「日立グループ一般社員の、出張宿泊費の規程も参考にした」という。
老朽設備への課題は残るが、新需要を創出
一方、長寿荘が運営するホテルでもっとも古い「ホテル クリスタルパレス」は、大中の宴会需要に対応でき、約500台の無料駐車場を持つ地域の迎賓館的存在。新装したブライダル施設も備え、少子化の時代でも斬新な「ウェディング需要」が堅調だ。客室もシングルからスイート、和室まで多彩だが、JR勝田駅からは徒歩で約30分かかるため、無料送迎バスを運行する。