日産自動車は、前会長のカルロス・ゴーン被告の後任選びの戦いが2019年6月の定時株主総会で繰り広げられることになる見通しだ。
日産、仏ルノー両社の思惑が絡み合って「ポスト・ゴーン」は不透明な状況となっている。ルノーは日産主導での決定は許さないだろう。
ロイター通信は12月13日、ルノーの筆頭株主である仏政府が、ゴーン被告の後継者選定に入ったと報じた。ルノーに在籍したことがあり、現在、トヨタ自動車副社長のディディエ・ルロワ氏が有力となっていると報じた。
ルロワ氏は仏ナンシー工科大学卒業後、1982年にルノーに入社。工場のエンジニアとして成果を出し、当時ルノーの幹部だったゴーン被告の目に留まり、ゴーン被告の部下として働いた。
ルロワ氏は16年10月、慶應義塾大学で行った講演で、トヨタ入りの経緯を語っている。
「1998年にトヨタからヘッドハントの誘いを受ける。日産とルノーが提携する1年前だ。最初は断ったが、その後、トヨタの製造部門のトップからフランス新工場の草案を見せてもらった。カルロス・ゴーン氏とトヨタ、どちらを取るか。私はトヨタを選んだ。周囲は猛反対だった」
トヨタ入社後は念願のフランス工場建設に携り、赤字続きの欧州事業の立て直しに奔走。ゴーン流のコストカットは行わないと決め、土台をつくることに専念した。実績が認められ、15年、トヨタ初の外国人副社長に就任した。
「ルロワ氏は、今でも古巣のルノーから信頼されている。名前が挙がっているのは、そのためだ」(在フランスの自動車アナリスト)
国内の自動車メーカーのトップは「仏政府は、日本の自動車業界に通じているルロワ氏をルノーと日産の会長に据えて、ルノー主導による日産、三菱自動車の三社連合(アライアンス)の維持を図るのが狙いだ」と分析する。
12月17日付仏フィガロはタイヤ大手、ミシュランのジャンドミニク・セナール最高経営者(CEO)がルノー会長の有力候補となったと報じた。セナール氏がルノー会長に就く場合は、現在CEO代理のティエリー・ボロレ氏が正式なCEOになり、ルノーの経営にあたるとの見方を伝えた。
そのほか、PSA(旧プジョーシトロエン・グループ)のカルロス・タバレスCEOの名前も挙がっている。タバレス氏はルノーに在籍していた当時はCOO(最高執行責任者)だった。
「ゴーンに『トップの椅子を譲れ』と直談判してゴーンから切られ、ルノーのライバルのPSAのトップに移籍した経緯がある。タバレス氏がルノーの会長になれば、故郷に錦を飾ることになる」(ルノー関係者)
一方、ルノーの傘の下から抜け出すことを悲願とする日産は、会長は日産から出したいとの思惑がある。だが、日産に43.4%出資しているルノーが会長・社長候補を出せば、日産に勝ち目はない。
日産側は西川廣人社長兼CEOが会長に就き、後任の社長には、菅義偉官房長官が後ろ盾になっている川口均・専務執行役員を昇格させるシナリオを描く。
しかし、仏政府とルノーが西川・川口案を認める可能性は極めてゼロに近い。西川氏はゴーン追放のクーデターを決行した張本人であり、川口氏はゴーン被告を東京地検特捜部(森本宏特捜部長)に告発した極秘チームのメンバーの一人だからだ。ルノーとゴーン被告にここまで弓を引いた以上、西川氏は長く留まれないとみられる。19年6月の株主総会で社長交代となる可能性が高い。
仮に後任社長は日本人だとしても、ルノー側がOKを出す人物に限られる。「ルノーと一緒に仕事をしたことがある購買部門の人の可能性はある」(ルノー関係者)という。“隠れゴーン派”といわれる、元ナンバー2の最高執行責任者(COO)だった志賀俊之取締役の復帰の芽が出てきたという指摘も一部にはあるが、今のところ本線ではない。
ルノーは日産に対し、臨時株主総会の早期開催を要求している。