(三村明夫氏、小林喜光氏、榊原定征氏/写真:つのだよしお/アフロ)
経済同友会は、2019年4月に任期満了となる小林喜光代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)の後任に、副代表幹事のSOMPOホールディングス(HD)の桜田謙悟社長が就くことを決めた。損保業界からの代表幹事は初めて。4月26日の通常総会で正式に就任する。桜田氏はSOMPOHDの社長を続投する。
桜田氏は17年度に副代表幹事に就任し、産業競争力強化や雇用の流動化を進める必要性を訴え、同友会での議論をリードしてきた。18年10月に未来投資会議(議長・安倍晋三首相)の民間議員に就任した。
「同友会は人材不足。だから、OBの中から次を選ぶなどという、ありもしない話まで出ていた。かつては現役の代表幹事が次を指名していた。しかし、副代表幹事選びを恣意的にやって、よくわからない会社の役員を選んだりして揉めた。そこで選考委員会をつくって選ぶことになった。グローバルな発言力を高めることが重視された。副代表幹事の中では(適任者は)桜田さんしかいなかった」(経済同友会の元副代表幹事)
企画畑が長く制度改革などに強いし、やれる。技術屋で学者・評論家のような発言が目立った小林氏とは一味違う。趣味はサックスでジャズを演奏する。先生について熱心に練習していた。会議では必ず冗談を言って、意見が言いやすい雰囲気をつくるよう努めている。
もっとも、今でも牛尾治朗氏(ウシオ電機会長)、宮内義彦氏(オリックスシニア・チェアマン)といった長老の影響力が強い。2人がウンと言わないと、新しい代表幹事は決まらない。
「金丸恭文氏(フューチャー会長兼社長グループCEO)も代表幹事をやりたがっていたが、あまりにも菅義偉官房長官に近いということで、支持が広がらなかった」(同)
桜田氏は“マトモな論客”ということで長老たちのお眼鏡に叶ったようだ。
その一方で、「“自分が自分が”というタイプで上昇志向が強いこと」(同友会の関係者)や、「『まだ若い』『次の次がある』という意見が多かったのに、桜田さん本人がやりたくて、小林さん(現代表幹事)にすり寄って猟官運動をした」(別の元副代表幹事)など、辛口の評価もある。
「権力におもねるタイプ。政府の未来投資会議のメンバーだが、安倍首相の言うことをなぞっている感じだ。本人は代表幹事として安倍政権に直言すると言っているが、できるとは思えない」(経団連の副会長)
「損保は規制に守られた業種。そんな業界のトップが政府に直言できるわけがない。ましてや、企業の立場を離れて個人で提言するとしてきた同友会が規制業種から代表幹事を選ぶなんて。それをやってしまった小林さんの責任は重い」(財界首脳)
SOMPOHD社長との兼任は至難の業
桜田氏は改革志向の強い経営者として注目されてきた。10年に当時の保険業界では最年少の54歳で損保ジャパンの社長に就任。米保険会社の大型買収を決めたほか、15年には損害保険大手では初めて介護事業に本格参入した。
損保の殻を打ち破る新しい事業領域にデジタル戦略は欠かせないとして、米シリコンバレーやイスラエルに研究拠点を設け、保険とデジタル技術を融合する“インシュアテック”を進めてきた。
損保業界は厳しい経営環境にある。デジタル技術の進歩で従来の保険の仕組みを破壊するような保険が登場してきた。12年設立の米トロブが開発した「オンデマンド保険」だ。自動車で出かける場合、自動車の時価を算出して使用する時間だけに保険をかけることができる。申し込みはスマートフォン(スマホ)のアプリからできる。
必要なものに必要な時だけ保険がかけられるという画期的な仕組みは、長期間契約がスタンダードだった保険の常識を侵食。損保の事業モデルを壊しかねないと危機感が高まっている。
17年4月、SOMPOHDは、そのトロブに出資した。当時、桜田氏は「彼らとともに技術革新を起こす」と意気込みを語った。
損保大手は、ここ数年、海外のM&A(合併・買収)ラッシュに沸いた。損保は内需型企業の典型。丸ドメ企業が海外の大型M&Aに打って出るとき、海外展開を支える体制の整備と人材育成が急務となる。
SOMPOHDは海外事業の中核となる外国人幹部を「七人の侍」と呼ぶ。17年に6800億円で買収した米エンデュランスのトップだったジョン・シャーマン氏ら外国人幹部にM&Aや人事などの権限を大幅に移譲した。
桜田氏の持論は、「海外で技術革新が進むのに、東京ですべて管理するほうが危ない。“日本人による日本人のための経営”では勝てない」というものだ。成長の核と位置づける海外の事業統治の巧拙が将来の収益力を左右するだけに、お膝元のSOMPOHDの社長を続ける決断をした。
とはいえ、経済団体のトップと社長のポストを両立させるのは至難の業だ。そのため、SOMPOHDの後継者を早急に決める必要があるとの意見も多い。
(文=編集部)