日本全国の温泉地を擬人化して美少女キャラ化した「温泉むすめ」がインターネット上で物議を醸している。一部のTwitterユーザーらが、各キャラクターの設定に関して「性差別で性搾取」などと批判し、大きな議論になっている。
「温泉むすめ」は観光庁後援の地域活性化応援プロジェクト。47都道府県と台湾を合わせ122人のキャラクターが発表されていて、それぞれ各温泉地の特色や歴史、風物などを反映したキャラクターが設定されている。
有名声優を起用したアニメーションや、楽曲のリリースなど幅広い展開を見せており、2020年には、政府観光局が推進する訪日誘客キャンペーン『Your Japan 2020』でポケモンやハロー・キティとともに日本を代表するコンテンツにも選出された。運営会社のエンバウンドは内閣府のクールジャパン企業にも選出されている。
なお各キャラクターのうち有馬温泉(兵庫県・神戸市)、道後温泉(愛媛県・松山市)、湯村温泉(兵庫県・新温泉町)、南紀勝浦温泉(和歌山県・那智勝浦町)、飯坂温泉(福島県・福島市)、小野川温泉(山形県・米沢市)、鳥羽温泉郷(三重県・鳥羽市)、松島温泉(宮城県・松島町)、層雲峡温泉(北海道・上川町)、台湾(新竹県)は各地の観光大使および温泉大使に任命されているのだという。
「スカートめくりキャラ」「夜這いを期待」
発端は10代女性の自立支援等を行っている一般社団法人Colabo代表の仁藤夢乃氏が15日、以下のようにTwitter上で投稿したことだった。
出張先で「温泉むすめ」のパネルを見て、なんでこんなものを置いているの??と思って調べたらひどい。スカートめくりキャラ、夜這いを期待、肉感がありセクシー、ワインを飲む中学生、「癒しの看護」キャラ、セクシーな「大人の女性」に憧れる中学生など。性差別で性搾取。https://t.co/vw3w00zAPu pic.twitter.com/jkWRsvQKCa
— 仁藤夢乃 Yumeno Nito (@colabo_yumeno) November 15, 2021
<出張先で「温泉むすめ」のパネルを見て、なんでこんなものを置いているの??と思って調べたらひどい。スカートめくりキャラ、夜這いを期待、肉感がありセクシー、ワインを飲む中学生、「癒しの看護」キャラ、セクシーな「大人の女性」に憧れる中学生など。性差別で性搾取。>(原文ママ)
この投稿が呼び水となり、批判が殺到。同プロジェクトの後援企業に関しても以下のように不買を呼び掛ける投稿も出始めている。
「温泉むすめのサポーターがまあ錚々たる大企業がズラリと並んでるわけだけど、ここに名を連ねてる企業は性差別や性加害を問題であると認識しない企業であると認識しました。なるべく利用しないようにしたいと思います」
なお「温泉むすめ」公式サイト上の「後援」ページに名を連ねていたキヤノン、スカイマーク、大日本印刷、読売新聞、富士フイルム、スポーツ報知、ユニシスなどといった大手企業名は17日午前9時までに削除され、同日午前10時現在で観光庁のみの記載となっている。
そもそもどんな設定だったのか
批判を集めているキャラには公式サイト上で以下のような説明がなされていた。
・山形県(小野川温泉)・小野川小町
<四季を愛する雅で艶麗な歌人むすめ。動物が好きで、よく猫を愛でたり、ほたるの鑑賞をしたりしている。教養と気品があり、立ち振る舞いがとても美しい……のだが、布団に入ると妄想が爆発して「今日こそ夜這いがあるかも」とドキドキしてしまい、いつも寝不足気味。諸事情でサラシを巻いて胸のボリュームを隠している。>
・北海道(定山渓温泉)・定山渓泉美
<可愛い温泉むすめが大好きでいつもスカートめくりをしちょうイタズラなむすめ。可愛い子ちゃんの情報に詳しく、全温泉むすめのスリーサイズを覚えている。他人の可愛いところに詳しいが、自分も十分可愛いことに気づいておらず、「いずみちゃんも可愛いよ!」と言われると、真っ赤になって活動が停止するほど照れる。>
なお、Twitter上で批判が殺到して以降、17日午前までに小野川小町の「夜這い」、定山渓泉美の「スカートめくり」の記述がそれぞれ削除され、定山渓泉美のイタズラ好き設定には同地域に伝わる「河童伝説」を由来とする説明が書き加えられていた。
非実在美少女キャラの性的表現論争と温泉事業者の生活
実在の人間が存在しない“二次元キャラクター”の「性的搾取」問題がここのところ、注目を集めている。例えば、千葉県松戸市のご当地VTuber「戸定梨香」が登場する千葉県警の交通安全PR動画に関し、全国フェミニスト議員連盟が「性的だ」などと抗議表明を行い、激しい議論になった。先月末に行われた衆議院選挙でも、一部政党がマニフェストで「非実在児童ポルノ」に触れて物議を醸したことは記憶に新しい。
当サイトでも、この問題に詳しい自民党参議院議員の山田太郎氏の見解を記事『共産党の公約で「非実在児童ポルノ」が衆院選の争点化…表現規制問題の論点整理』『衆院選、共産党「非実在児童ポルノ」めぐる選挙公約への疑問点と矛盾点』で詳報している。
議論となっている「温泉むすめ」に関し、東北・北海道地域の温泉旅館組合の関係者は次のように話す。
「コロナ禍でお客様が激減しています。ようやく各地の温泉地にも明るい兆しが出始めてきたのに、これが逆風にならないか不安を感じています。
当地の温泉むすめは、地域の風物、歴史などもしっかり反映されています。実際に当地に足を運んでいただいた女性のお客様からの評判もよく、いまのところ批判の対象に上がっていませんが……。ただ松戸のVTuber問題を見ている限り、スカートが短い、おへそが出ているというキャラクターのビジュアルも“性差別”との批判になり得るようですし、時間の問題かもしれません。
すべてのお客様に快く温泉を楽しんでいただくのが我々、温泉地の事業者の願いですから、キャラクターを見てご不快になられる方がいらっしゃるのであれば考えなくてはいけません。
ただ、その『すべてのお客様』というのが難しいのもまた事実です。実際にキャラクターを愛してくださっているお客様からしたら、このプロジェクトがなくなれば悲しまれるでしょう。『キャラクターの批判をしているのであって、その温泉地を批判しているわけではない』とおっしゃられるかもしれませんが、こうしたが議論が立ち上がること自体が、温泉地に打撃を与えるのです。
一連のネット上の議論の中では『この企画が酷いだけではなく、これだけ人権意識がバグってると、脱衣所とかに超小型カメラを着けるスタッフが紛れていそう…』(編集部注:コラムニストの勝部元気氏の発言、現在は削除)などと投稿される方もいらっしゃいました。
この企画を受け入れている温泉宿のスタッフや観光事業者が性犯罪者だというのでしょうか。明白な風評被害で、怒りすら覚えます。少なくとも私は、現実社会に存在する性差別や性犯罪は厳しく取り締まるべきだと強く思っています。
『そもそも議論になるようなキャラクターを作らなければ良い』のは確かにその通りです。ですが、例えば直接的に性的な表現をしていないものに関しては、どうしても受け取り手の感じ方に左右されるのではないかと思います。文化的、社会的な議論をされるのはおおいに結構だと思います。一方で自身の主張を通すためだけの行き過ぎた不買運動や批判が、誰かの生活を脅かすという事実を忘れないでいただきたいです」
「温泉むすめ」プロジェクトを後援する観光庁観光地域振興部の担当者に、今後の同プロジェクトに対する観光庁の方針や見解を聞こうとしているが、17日午後2時現在、「会議のため不在」とのことだった。回答があり次第、追記する。
(文=編集部)