買収によって武田薬品の財務は大幅に悪化するが、年180円の配当は維持する方針を示している。こうでもしなければ、日本人の既存の株主の“反乱”が起こるからだ。このため、コア(中核)以外の資産の売却に踏み切り、負債削減を早期に進める。資産の売却は最大100億ドル(約1兆1000億円)規模になると試算されている。
大衆薬事業が焦点に
手始めに大阪市内の本社ビル「武田御堂筋ビル」や周辺のビルをまとめて米国の不動産ファンドに総額500億円程度で売却する。売却先は米ファンドのグリーンオーク・リアルエステート。武田にとっては創業の地・道修町のシンボル的な建物で、登記上の本社はここだ。売却後も賃借に切り替えて使用する。
武田は1月28日、大阪の本社ビルなど、全国の21の資産を売却すると発表。税引き前の売却益は総額で約380億円。19年3月期の業績予想で、不動産売却益として800億円を織り込んでおり、大阪本社ビルなどの売却はこの一環。子会社の武田薬品不動産も身売りの対象だ。
昨年、東京・中央区に「武田グローバル本社」を約660億円かけて完成させた。グローバル本社ビルは保有し続ける方針で、武田の創業の地、大阪離れが進むことになる。
18年5月に、中国の合弁会社の保有株式を約300億円で売却すると発表しており、大阪本社ビルの売却がリストラ第2弾となる。
欧米では、一般用医薬品(大衆薬)をめぐるM&A(合併・買収)が活発化している。医療用の新薬の開発コストが高くなるなかで、大衆薬を切り離して資金を得て、新薬の開発につぎ込む「選択と集中」の動きが目立つ。医療用医薬品と大衆薬はビジネスモデルが全然違い、両方を持つ利点はあまりない。
武田薬品は否定するものの、「アリナミン」などの大衆薬事業を手放すとの噂は絶えない。武田薬品は戦後、“アリナミン王国”を築いた。1960年代には、全利益の半分をアリナミンが稼ぎだした。80~90年代には抗潰瘍薬「タケプロン」や糖尿病薬「アクトス」など年間売り上げが1000億円を超す4つの大型新薬を販売。「4打席連続ホームラン」と称され、絶頂期を迎えた。これら新薬の開発はアリナミンが莫大な利益を上げたから可能になった。
武田薬品の黄金期を築いたアリナミンを売却するとなれば、衝撃は大きい。世間のイメージは「アリナミンのタケダ」だからだ。
「売りに出されれば、国内外の大衆薬メーカーや投資ファンドによる争奪戦が繰り広げられる」(国際M&A専門のアナリスト)
過去のしがらみと無縁なウェバー社長は、創業の地にある本社ビルの売却に続き、アリナミンを含む大衆薬事業の売却に踏み切るのか――。
2019年の日本医薬品業界最大の関心事である。
(文=編集部)